研究課題/領域番号 |
15K13379
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
馬場 俊彦 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50202271)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞イメージング / GaInAsP / フォトルミネセンス / ラベルフリー |
研究実績の概要 |
本研究ではGaInAsP/InP半導体が、それを浸漬する溶液のpHや半導体の表面電荷によって、光励起に対するフォトルミネセンス強度を変化させるという独自の発見をもとに、半導体の表面に生きた細胞を直接培養し、蛍光標識を用いずに、フォトルミネセンスの強度パターンを通じて細胞のイメージングを行うことを目指したものである。そのため、-60℃まで冷却可能で、同半導体の発光波長帯(1300~1600nm)に対応可能なInGaAsカメラを利用し、まずは半導体表面に代表的ながん細胞である子宮頸がん細胞を培養してイメージングを試みたところ、確かに細胞がある個所でフォトルミネセンスが強くなることを確認した。これはがん細胞が培養液より低いpHをもち、それによって表面の負の帯電が抑制され、これによって半導体内に形成されたショットキー障壁の高さが減少、表面再結合が抑制されたという物理モデルが考えられた。このモデルは、水中で正に帯電する自己組織化単分子膜を半導体表面に形成したときにフォトルミネセンスが強くなることからも裏付けられた。そこでさらに様々な細胞の培養と観測を試したところ、肝臓がん細胞では同様のイメージが得られ、正常細胞ではこのようなパターンが観測しづらかった。これはがん細胞のpHが一般に低いことに起因していると考えられる。逆に言えば、がん細胞と正常細胞を蛍光標識や染色を行うことなく識別できる可能性を示しており、有用な成果が得られたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
InP基板上に有機金属気相成長法を用いてGaInAsP層 (厚さ約300 nm) をイメージング用の基盤とした。この上に、子宮頸がん細胞、肝臓がん細胞、リンパ管内皮細胞、マウス脳血管内皮細胞を培養し,波長980 nmのレーザ光を広げて光励起した。細胞へのダメージを避けるため、パルス励起とし、冷却型カメラを用いることで暗電流を抑制し、フォトルミネセンスのコントラストを高めた。その結果、二種類のがん細胞では明らかに細胞が付着している個所のフォトルミネセンス強度が高くなることが確認された。一方、二種類の正常細胞についても細胞に対応する部分の強度が増大したものの、その変化はがん細胞に比べると小さかった。正常細胞のpHは周囲の培養液のpH = 7.4とほぼ同じなので,フォトルミネセンスの変化が小さいと予想されたが、わずかな変化は細胞分泌物の影響により局所的にpHが低下しているか,イオン濃度が上昇している可能性がある.同一種類の細胞でもPL強度が増大していないか,むしろ低下している可能性が考えられた。また細胞と基板の接着状態,細胞の状態にも関連していると考えられた.細胞とフォトルミネセンス強度の関連がより明確になれば,細胞の分析が著しく簡単になり、蛍光標識等が不要の低侵襲なバイオイメージング技術になると期待される.
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今後の研究の推進方策 |
2年目は細胞の挙動とフォトルミネセンス強度の対応の原因をまず探求する。これには、細胞に蛍光標識を導入し、それが示す蛍光像と、本研究のフォトルミネセンス像がどのように対応するかを調べるのが最も有効である。現在の顕微鏡に現有の青色レーザを励起光源として、CCDカメラをイメージング素子として設置し、励起光カットフィルタを入れて、蛍光像の同時観測を可能にする。これにより細胞内部や表面の挙動と、フォトルミネセンス像を比較し、フォトルミネセンス像の主要要因が何かを特定する。次に幹細胞の培養を試みる。幹細胞は様々な細胞に分化することができるものであるが、これに蛍光標識を導入すると、侵襲によって分化が阻害されることが知られている。これを本半導体基板のフォトルミネセンスによって観測することを目指す。もし分化による変化が確認できれば、幹細胞のメカニズムを解明するのに大きく貢献し、また分化の安定化や制御の手法を発見することにもつながると期待している。
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