本研究では,蛍光等の標識を用いず(ラベルフリー)に,様々な細胞をイメージングする新しい手法として,半導体イメージングプレートを提案,実証した.これはGaInAsP系半導体を光励起したのフォトルミネセンス(PL)に対して代表者が発見した現象(pHや表面電荷によってPL強度が変化する)を原理としている.細胞表面には異なるpHや電荷をもつ様々な媒質がある.細胞が半導体イメージングプレートに吸着する状態で光励起し,そのPLを近赤外カメラで観察すると,細胞の状態を反映したイメージが捉えられる.実際にInP基板上にエピタキシャル成長された厚さ300nmのGaInAsP層をもつプレート上に子宮頸がん細胞を培養したところ,通常の光学顕微鏡像と対応するイメージが取得された.ただし部分的には対応しておらず,顕微鏡像には現れない細胞の挙動が反映していると考えられる.また他の細胞を試したところ,肝臓がん細胞でも同様のイメージが得られた.さらに脳血管内皮細胞や線維芽細胞といった正常細胞や,間葉系幹細胞においても,がん細胞より鮮明度は落ちるものの,イメージが得られた.特に間葉系幹細胞では,分化によってPL強度が低下することがわかり,分化の開始と終了をモニターできる可能性が示唆された.また,がん細胞にGFPなどの蛍光剤を導入したところ,PLイメージと対応する蛍光イメージも得られた.そこでこのような蛍光入りのがん細胞と蛍光なしの正常細胞を混合培養した.このとき,もしPL像が蛍光像と一致すれば,蛍光を用いずにPLだけでがん細胞と正常細胞を識別できることになる.結果的には全ての細胞においてPL像が観察され,蛍光像とは一致しなかった.がん細胞と正常細胞に対するPL強度にしきい値を与える培養液や試薬を検討することで識別が行える可能性があり,今後の進展が期待される.
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