研究課題
有効なドラッグデザインのためにはタンパク質分子の立体構造の解明が必須であるが、それを実現させるには構造解析に足る高品質なタンパク質結晶が必要である。申請者らは、フェムト秒レーザーをタンパク質結晶の表面に直接照射することで、結晶の成長機構を高品質化に有利とされている「渦巻き成長機構」へ転換できる技術を高度化し、高品質かつ大型なタンパク質結晶の育成技術の開発を目的とする。本技術は申請者らによって世界で初めて見出されたものである。これまでに開発してきたフェムト秒レーザーによる結晶核発生技術と組み合わせることで、タンパク質の核発生から成長までをレーザーで一貫制御することを目指して研究を行った。平成27年度は特に、鶏卵白リゾチームの正方晶結晶表面に渦巻き成長丘を誘起可能なレーザー照射条件および溶液の過飽和条件(σ:濃度に対応)に関して成果を得た。現時点で最適なレーザー照射方法は、集光点をある程度走査する集光走査という方法である。また、渦巻き成長の誘起にはレーザー照射総パルス数が重要であり、今回検証したσ=~2.8程度の過飽和条件において、照射総パルス数が4000パルス程度の走査が結晶表面に単独の渦巻き成長丘を発生するのに最適であることが分かった。一方、パルス数が少なすぎると渦巻き成長は発生せず、照射総パルス数が大きすぎる(例えば~20000パルス)と、結晶表面に多数の微結晶が晶出し、結晶が多結晶化してしまうことも明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
鶏卵白リゾチーム(HEWL)をモデル物質として用い、正方晶結晶の{110}面に渦巻き成長を誘起可能なレーザー照射条件および溶液の過飽和度条件を検討した。結晶へのレーザー照射方法としていくつかの照射方法(結晶表面への直接集光、集光点の走査、レーザーによって生じたキャビテーションバブルを衝突させるなど)を試みた。その結果、レーザーを結晶表面近傍に、集光走査する方法が最も渦巻き成長誘起に適していることが分かってきた。また、レーザーを集光走査する際のパワーおよびパルス繰り返し周波数を最適化する必要性も明らかになった。パルス数が少なすぎると渦巻き成長は発生せず、照射総パルス数が大きすぎる(例えば~20000パルス)と、結晶表面に多数の微結晶が晶出し、結晶が多結晶化してしまう。今回、σ=~2.8程度の過飽和条件において、照射総パルス数が4000パルス程度の走査により、結晶表面に単独の渦巻き成長丘を発生可能であることが明らかになった。また、この適切な照射総パルス数は、溶液の過飽和度に依存してシフトすることも明らかになった。これらは当初の計画どおりの進行であり、よって評価を2とする。
平成28年度には、本技術で渦巻き成長した結晶について欠陥のキャラクタリゼーションを行う。また、タンパク質構造解析にとって最重要である、X線構造解析分解能への影響も評価する。結晶の欠陥評価は、実験室内の結晶表面観察装置とKEKなどの放射光施設を併用して行う。はじめに、結晶の大部分を渦巻き成長機構で成長させた結晶を作成する。この結晶の表面をごく微小量溶かすことで、結晶内部に取り込まれている不純物の密度や、結晶欠陥の密度を見積もる。次に、同様にして得た結晶をKEKにおいてX線トポグラフィ観察し、結晶内部の欠陥の同定を行う。これまでの研究により、技術的には、鶏卵白リゾチームのX線トポグラフィ観察によって結晶の欠陥密度を評価可能となっている。また、最終的には、共同研究者らとの連携により、SPring8におけるX線構造解析を行い、通常育成したタンパク質結晶と、本技術によって成長機構を制御して育成したタンパク質結晶の品質(最高分解能など)比較を行う。これに加え、別のタンパク質に対しても本技術が適用可能かどうかについても調査を進めていく。
より計画的な研究遂行のため、必要試薬類を次年度購入する方針に変更したため。
28年度において、上記の試薬品等購入に使用する予定である。
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Applied Physics Express
巻: Vol.9, No.3 ページ: 035503-1-3
http://doi.org/10.7567/APEX.9.035503
Journal of Crystal Growth
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