研究課題/領域番号 |
15K13385
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
神成 文彦 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (40204804)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 量子光学 / 量子相関光 / フェムト秒レーザー / 量子クラスタ状態 / ファイバ非線形光学 |
研究実績の概要 |
ファイバ中の量子状態の発展を量子非線形シュレディンガー方程式で表し、ファイバの入射地点と出射地点の量子状態の線形な関係性を数値解析的に得たうえで、これをオイラー分解することにより可分なスクイーズド光の複素電界スペクトルとスクイージングレベルが得られる手法を提示した。 この解析の結果、ゼロ分散領域の高非線形フォトニック結晶ファイバを用いることで数十~数百のスクイーズド光を並行生成可能であることが判明した。また、従来よく用いられていたソリトン伝搬によるスクイーズド光生成では、高ピークパワー・高非線形を保った伝搬により、並行生成数は2個程度であるものの、20dB以上の高いスクイージングレベルが達成可能であることがわかった。 また、以上の計算では、入射のパルスの形状はフーリエ限界パルスを仮定し、ファイバの特性と出力の量子相関の解析のみに注目していた。しかし、出力の量子相関は入射パルスのスペクトル位相に依存する。これを利用して、最適化制御により出力の量子状態が任意のものになるように入射パルスをアダプティブに変化させることで、任意の量子状態を得るようなスキームを考え、このスキームの有用性を数値解析的に示した。ターゲットとした量子状態は4つの周波数帯に形成されたクラスター状態である。この4者間のクラスター状態は4パターンのT形、12パターンの線形、3パターンの四角形がある。ファイバの量子非線形シュレディンガー方程式を用いて考案したスキームを数値解析モデルによって解析したところ、これらの全パターンのクラスター状態は入射パルスに対する最適化制御のみで達成可能であることを示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ファイバ非線形光学効果を用いてフェムト秒レーザーパルスの周波数モード間に量子相関を形成する研究に関しては、非線形シュレーディンガー方程式を用いた数値モデルによるシミュレーションにより2つの大きな成果を得た。 (1)周波数モード間の群速度分散が無視できる条件では4波混合過程を通じて複数の周波数モード間で直交位相スクイージングが形成できることが明らかになった (2)ファイバに入射するレーザーパルスの周波数位相を適応制御することで、N=4の量子クラスターモードを自在に制御して生成することが可能であることが明らかになった これらの成果は、フェムト秒レーザーを用いた周波数間量子相関形成に極めて重要な知見であるが、一方で、実験に用いる波長1550 nmの低雑音モード同期レーザーの自作においては、予想外にCr:YAGレーザーの利得が低く発振に至っていない。レーザー励起の際の熱誘起複屈折による偏光特性に起因している可能性を得ているが解決に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
(1)実験での量子相関形成を実証するために、低雑音1550nmフェムト秒レーザーの構築を急ぐ。すでに、信号光および局所発振光(LO)用の周波数位相制御用波形整形器の準備は出来ている。現状では、結晶の冷却の不均一さが原因で、熱誘起複屈折で局所的に偏光特性が乱れ、ブリュースター角の端面で損失が生じてる可能性が高い。両面直角研磨の結晶を用いて確認し、冷却系の改良を行い、フェムト秒レーザー発振を実現する。 (2)波形整形したLO光と信号光の平衡ホモダイン計測結果を入射光の波形整形器にフィードバックさせる実験系を構築し、パルス全体のスクイージングにおいて機能することを確認する。原理は昨年度理論モデルから実証済みである。 (3)レーザーパルスの帯域内に設定した4つの周波数モード間での量子クラスター状態を(2)の方法で入射レーザーパルス波形を適応制御で形成できることを実験的に確かめる。原理は昨年度理論モデルから実証済みである。 (4)(3)で各クラスター状態用に最適化されたパルス波形を切りかえることで、クラスター状態を切り替えることが可能であることを実証する。 (5)クラスター状態の最適制御生成においてモード数をスケーリングすることは、計算機モデルで計算時間が膨大になることから、実験において、モード数を増加させ実験上のスケーラビリティに関して知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度の研究において、実験用に準備していたCr:YAGフェムト秒レーザーの発振が実現しておらず、そのために実験を見越した光学部品等の準備において2015年度予算の支出を100%満たすに至らなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
50000円以下の少額であるので、2016年度のCr:YAGフェムト秒レーザーの冷却系の改良におて2016年度予算と合算して、部品の購入を行うことで対応する。
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