本計画の最終年度にあたる平成29年度には,プラズマと相互作用する液相の界面直近領域を観察する方法として,研究計画調書に記載したエバネッセント波吸収分光法に代わり,研究協力者が着想したルミノールの化学ルミネッセンスを利用する方法を用いて実験を行った。ルミノールを溶かしたアルカリ溶液にプラズマを照射すると,プラズマ照射部直下の液相側界面近傍領域において,青色の発光が観察されることを見いだした。ルミノールは鉄イオンなどの触媒存在下で過酸化水素と反応して青色の発光を示すことが広く知られているが,分析化学やソノケミストリー分野の文献を調査したところ,スーパーオキシドラジカルとは無触媒の条件で反応し発光すること,および,OHラジカルとの反応でも同様に発光する可能性があることがわかった。実際の実験でも,発光領域はプラズマ直下の極めて薄い領域において見られ,放電のON/OFFに対応して瞬時に発光/消光したことから,この方法によりプラズマから液相に輸送される短寿命活性種をモニターできる可能性が示された。 次に,プラズマと相互作用する液相における過酸化水素の存在領域を調べるため,硫酸チタンを溶かした溶液を用いた実験を行った。硫酸チタン溶液は過酸化水素と反応して黄色に呈色することが知られている。黄色に呈色した領域がプラズマとの相互作用領域を起点として広がる様子から,プラズマによって誘起される特異な流動現象を観察することができた。一方,黄色に呈色した領域とルミノールの青色発光領域とを比較することにより,短寿命ラジカルが過酸化水素に転換される様子を観察しようと試みたが,明確な結果を得ることはできなかった。短寿命ラジカルの存在領域は極めて狭く,より顕微な光学装置を用いてパルス化されたプラズマが照射された直後の状態を観察する必要があるものと考えられた。
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