本研究の目的は、真空と屈折率が異なる媒体を相対論的電子ビームが通過する際に放出されるほぼ100%のラジアル偏光した空間的にリング状の放射であるチェレンコフ光を用いて、伝搬方向にのみ光の電場が存在するZ偏光状態を創出することを目指す。そのためにチェレンコフ光の特性の評価および可干渉なコヒーレントチェレンコフ放射を放出する極端に短い電子パルスの生成等の基礎的な研究に加えてチェレンコフ光を輸送する特殊光学系の開発を行うものである。 東北大学電子光理学研究センターの50MeV試験加速器を用いてバンチ圧縮実験を行ない、平成28年度までに約100フェムト秒(長さにして30μm)の超短パルス電子ビームの安定な生成技術が確立した。約4THzまでのコヒーレント放射が得られる事を遷移放射の測定で明らかにし、波長スペクトルから見積もられる推定バンチ長は80フェムト秒であった。独自に開発した荷電粒子からの放射シミュレーションコードを用いて、チェレンコフ放射の空間プロファイルおよび波面形や伝搬の特性を調べるための理論計算を行った。その結果、チェレンコフ放射体の厚みを大きくしても時間分解能が損なわれる事がないこと、また干渉条件が長波長になるにしたがい緩くなるため、テラヘルツ域ではチェレンコフリングは大きくぼやけてしまい、集光によって100%のZ偏光場は形成できないことも分かった。 平成28年度の作成したアキシコン-逆アキシコン鏡(AIAミラー)を用いてチェレンコフ光を計測室まで輸送し、バンチ長をストリークカメラで測定することができ、新たなビーム診断手法を確立した。Z偏光創出の試験実験を行ったが、ある程度狭いバンド幅で波長を選択する必要があることから光量の低下が免れず、実際の観測には至らなかったが、チェレンコフ光の特性の理解の進展と同時に最終研究目的を達成するための課題が明確になった。
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