研究課題/領域番号 |
15K13397
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
伊藤 雅英 筑波大学, 数理物質系, 教授 (30150874)
|
研究分担者 |
青木 貞雄 筑波大学, 数理物質系(名誉教授), 名誉教授 (50016804)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 電磁場解析 / 準結晶構造 / X線集光素子 / 回折限界 |
研究実績の概要 |
H27年度に得られた設計指針に基づいて、穴のサイズを大きくして、集光点の輝度を大きくすることで、軟X線強度の検出を試みた。穴のサイズの増大は、FIB(Focused Ion Beam)での集光素子の製作も容易にした。 また、5回対称準結晶の穴の数最少個数の6個と、46個で設計した。穴の間隔と穴の径を集光素子からの距離が16mmで集光するようにフラウンホーファー近似で計算・最適化して、FIBで製作した。素子の基板は窒化珪素100nmの上に白金100nmを蒸着して、光を十分遮る一方で、FIBでの加工が可能な厚さとした。放射光による散乱パターンの計測を行った。放射光は高エネルギー加速器研究機構(KEK)のビームラインBL11-Dを用いた。 軟X線は空気中を透過できないので、計測は、真空中で行う。また、離れた2点間でのコヒーレンスを確保できていることを確認するために、ピンホールを通してから、CCDイメージセンサで観測した。 ピンホールの径と散乱パターンの関係を調べ、径50ミクロンであればある程度のコヒーレンスがあることが分かった。 真空系で、ピンホール、集光素子、スリット、CCDカメラの順にならべ、ピンホールとスリットを動かした。6穴および46穴、それぞれの集光素子の散乱パターンを観察した結果、シミュレーションと同様の、三角が円形に並んだパターンが得られた。計測時間は10秒程度で十分な信号強度が得られた。以上の結果より、軟X線の準結晶集光素子による集光を、シミュレーションにより間接的に確認でき、6穴の時に集光径は3ミクロン、集光効率は2%程度ある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
集光素子の設計を行い、集光素子の製作やその評価を放射光施設で行うことができた。 【素子製作】利用できるFIB装置の性能により、準結晶集光素子穴の数は最大100程度に制約を受ける。また、軟X線は硬X線に比べて光源の強度が弱いため、高い集光効率が求められる。集光素子作成に向けて、計測可能な光量と、長い集光距離を確保できる穴径および間隔の設計を検討した。さらに、穴の開いていないところでは、光を十分に遮るような十分な膜厚を作成した。一方、FIB(Focused Ion Beam)できれいに多数の穴を貫通させるこつを、筑波大学の専門家に相談して検討した。この結果、径4ミクロンで5回対称6穴の素子と、径2ミクロンで5回対称46穴の素子を作成できた。 【計測】加速器研究機構(KEK)の協力を得て、放射光の強い光を利用した集光の計測を行うことができた。集光素子に、コヒーレンスの高い光を当て、スリットを集光点の端をよぎらせることで、その集光の様子の観察を試みた。散乱パターンについては、計算と同じものを計測することができた。6穴と46穴の二種類の集光素子について、計測した。50φピンホール-(767mm)-集光素子-(16mm)-50ミクロン幅スリット-(247mm)-CCDイメージセンサの順に、それぞれの間隔で並べ、分布を計測した。 【計算】フラウンホーファー近似のプログラムを作成し、軟X線の散乱パターンを再現することができた。このことから、計算通り集光径3ミクロンが実現できていると予想される。 【研究体制】学生4人研究員一人、教員4人(内KEK1人)の体制となり、人員体制は十分である。
|
今後の研究の推進方策 |
FIBによる穴の作成は、内作で行った。条件だしに時間がかかったが、穴あけ時の基板の固定条件改良、穴径の設計値拡大、露光時間最適化などを行った結果、穴をきれいにあけることができた。また、KEKの共同研究プロジェクトに採用され放射光を使うことができ、本学の軟X線技術の蓄積を活用することで、CCDによる散乱パターンの計測に至った。これは、さらに、フラウンホーファー近似を用いて計算した散乱パターンを再現した。予想集光径は3μm程度と大きいが、初期目標を最低限クリアしたことになる。 これ以降の方向性は、次の2点である。 1.集光径を波長レベルまで下げる。2.集光強度を上げる。 これらの目標達成の一つの手段は、穴径を小さくすると同時に、穴の数を増やすことが挙げられる。しかし、FIBの穴あけの最少径が軟X線波長より大きいこと、穴のアスペクト比が高いと貫通が難しくなることから、実現は困難である。例えば、最新のFIB装置で、一点加工での穴の最少径を窒化珪素で試作・検討したところ、50nmであった。また、白金の膜厚を100nmと200nmで穴あけ試作を行ったところ、6穴では、白金膜厚が100nmと200nmの両方とも穴が貫通したが、46穴では、膜厚100nmのみ貫通した。また、加工時間は、46穴では16分である。FIBは安価かつ最小限の条件だしで、穴を作成するには適しているが、より小さくかつ多くの穴を空ける手法としては電子線露光等他の手法で行うのがよいと思われる。 FIBは、作成の負荷が小さいことから、穴の配置について、5回対称以外の準結晶を検討し、多くの施策をこなすことで、最適な配置を見出すのに向いている。今後、配置と集光パターンの関係をシミュレーションし、実験を進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
準結晶パターンをモデル化したX線集光素子は数ミクロンの大きさのピンホールパターンを窒化シリコン基板に多数配列して製作する。微細なピンホールの製作は電子線蒸着装置とイオンビーム装置を利用して製作するが、その試作において、最適な条件を見つけるためには、放射光を利用した実験結果を見てフィードバックさせる必要がある。放射光実験は半年に1回程度したできないため、窒化シリコン基板の購入費と試作費が必要である。
|
次年度使用額の使用計画 |
具体的な予算計画は以下の通りである。光学素子、電子部品などの消耗品の購入の他、窒化シリコン基板購入および集光素子製作費、放射線バッチ代などである。学会発表費用、および、論文発表費用として使用する。
|