研究課題/領域番号 |
15K13398
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福山 寛 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (00181298)
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研究分担者 |
村川 智 東京大学, 低温センター, 准教授 (90432004)
戸田 亮 東京大学, 低温センター, 技術職員 (20452203)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 磁気冷凍 / 断熱消磁冷凍 / 超低温 / 熱スイッチ / 熱接触 / 磁気シールド |
研究実績の概要 |
詳細な数値計算を行い、2つのPrNi5核ステージを並列運用する方が、直列運用より製作の容易さ、熱流入量の低減などの点で本研究の目的には優れていることを明らかにした。各主要要素(熱スイッチ、超伝導場マグネット、核ステージ)内および要素間の接触部に要求される熱伝導度を具体的に算出し、実際にT = 0.8 mKで冷却力10 nWの連続冷却核断熱消磁冷凍が実現可能であることを示した。 続いて、各要素個別の詳細な熱および磁場計算を行い、それぞれの詳細設計を行った。超伝導熱スイッチは、小型化のため超伝導Znフォイルと熱リンクのAgフォイルを熱拡散融着する方式を採用した。最適熱処理条件を探るための予備実験を経て試作品を製作し、4.2 Kにおける残留電気抵抗測定から要求仕様を満たすことを確認した。 磁場分布の詳細な数値計算を行い、真空中で動作させる磁気シールド付き小型超伝導場マグネットとして、従来のactive shield magnetと超伝導シールドを併用する方法ではなく、高透磁率材のFeCoVで囲む磁気シールド方式の方が、中心磁場を約30%大きくできることを示した。具体的には、最大印可磁場1.2 Tのときシールド外壁から数cmの位置での遺漏磁場を1 mT程度に遮蔽できる。さらに、磁気ヒステレシス効果による磁場掃引時の超伝導線材の発熱量を磁化曲線の実測から評価した。これにより、マグネットを希釈冷凍機の分留器(0.8 K)に熱アンカーすることで、必要な1 mT/sの掃引速度を確保できることを示した。 PrNi5核ステージを熱リンクの純金属線と熱接触させる際、従来は有害なCdハンダ付けが行われていたが、より安全な代替手段として、両者をZnハンダ付けする方法を提案し、テストピースで良好な残留接触電気抵抗値を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的である1 mKを切る超低温を連続発生する小型で操作簡便な核断熱消磁冷凍機の実現に向けて、研究は一歩一歩着実に進んでいる。しかし、当初予想より1年近く進捗は遅れている。当初研究計画は、(1)詳細な数値計算を実施し、 (2)それを元に具体的な装置設計を行い、(3)細心の注意の元で各構成要素部品を製作し、(4)要素毎の低温動作テストと性能評価を実施し、(5)最後に装置全体を組み立てて連続冷却の実証実験を行う、の手順である。現状は、熱スイッチが(4)、マグネットが(3)から(4)への移行期、核ステージが(3)の段階に止まる。 その理由として、当初の予想を超えて(1)(2)に時間を要したことがまずある。同時に、本研究の立てた目標の大きさが研究の期間・体制・資金を超えるものであったことも、研究を進めて実感しているところである。実際、昨夏の第28回低温物理学国際会議(於スエーデン・ヨーテボリ)と超低温物理学国際シンポジウム(於ドイツ・ハイデルベルク)で本研究の概要と開発状況について発表したところ、海外の専門家から大きな注目を集めただけでなく、本研究以上の体制と資金をつぎ込んでフランス・グルノーブルのネール研究所のグループが類似の開発研究を最近始めたことを知った。現状では、先行して研究スタートした本研究の進捗が間違いなく上回っているが、今後は強力なライバルとなることが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
研究の進捗状況は上に詳しく記した通りであり、今後は熱スイッチ、小型超伝導マグネット、PrNi5核ステージの各構成要素の製作と極低温での個別動作テストを本年(平成30年)9月までに終了する予定である。いずれも汎用性の高い要素技術なので、それぞれ個別に論文発表する計画である。10月以降、これらを組み合わせて希釈冷凍機に搭載し、装置の冷却性能テストと問題解決を繰り返し、平成30年度末までに実証実験を終えたい。 上記したように、ネール研究所のグループが、個々の設計は異なるものの、同様のコンセプトの連続冷却型の核断熱消磁冷凍機の開発を進めている。我々は、彼らより早くプロトタイプの完成と実証実験を終え、論文発表することを目標にしているが、今年度内にも同グループとの共同研究を始める可能性について議論を始めている。ネール研究所は、非常に細い線材でマグネットを巻く工房を持ち、専任の技術職員も抱えている。基礎技術が完成した後の装置の改良や完成段階では、量産性に優れる同グループとの協力はメリットがあると考えている。 本研究の終了後に開発すべき技術として、サブmK温度域で連続計測可能な高感度温度計の開発がある。本研究内では、スピン-格子緩和時間で測温頻度が制限されものの、手持ちの技術である白金線のパルスNMR温度計を用いている。しかし、2つの核ステージを熱的に接続/絶縁する際の滑らかな切り替えなど、高い精度で温度を一定に保つためには、新しい測温技術の開発が次の大きな目標となるに違いない。この点でも、ネール研究所との国際共同研究は検討に値する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は着実に進んでいるが、当初予想より、(1)詳細な数値計算の実施と(2)それらを元にした具体的な装置設計に多大な時間を要したことで、1年近く進捗が遅れているため次年度使用額が生じた。 使用計画は、FeCoV磁気シールドやPrNi5核ステージのZnハンダ付け用電気炉などの部品代や制作費のための消耗品経費(約480千円)、国内学会旅費(約100千円)、学会参加登録費(約100千円)である。
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