研究課題/領域番号 |
15K13405
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
日野 正裕 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (70314292)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中性子光学 / スピン / 磁気多層膜 / MIEZE / 時間 |
研究実績の概要 |
非相対論的量子力学において、時間はパラメーターであり、期待値で求められるような観測量の形式をとっていない。しかし量子、特に質量を持つ中性子が障壁を(共鳴トンネル)通過する時間は如何ほどか?また定在波はどのくらいの時間でできるのか? これら素朴だが量子力学が答えられない疑問に、シンプルでかつ実時間観測可能な実験を行い、一石を投じる。さらに本実験の理解を通して、新たなTOF-MIEZE分光法の可能性を検討することを研究目的とした。
2017年4月までに、↑スピン中性子に対して200の多重連結共鳴トンネルポテンシャルを形成する磁気多層膜の製作に成功。その磁気膜を透過した中性子ビームで実効振動数200kHzのTOF-MIEZEシグナルの観測に成功した。
ここでMIEZE(Modulated IntEnsity by Zero Effort)は、中性子の速度変化を測定する中性子共鳴スピンエコー装置装置の一種であり、その名の通り時間(時刻)で中性子強度が振動する。飛行時間法(TOF)を利用するTOF-MIEZE分光法は、J-PARC/MLFのパルス中性子源のようにパルス幅の時間が短いことが装置の高度化にも非常に有利であること発見し、その結果を投稿している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
多重連結共鳴トンネルポテンシャルを形成する磁気多層膜の製作に成功。それを試料として実効振動数200kHzのTOF-MIEZEシグナルの観測にも成功した。さらにTOF-MIEZE分光法の新たな可能性も見えてきている。
しかし精密なデータ処理のための解析手法については検討が必要な状況であり、解析手法だけでなく、データ自体も中性子計数を上げ、バックグラウンドを下げる必要がある。またTOF-MIEZE分光器の実効振動数は電力増幅回路の電気ノイズのために200kHzが上限であり、それ以上の高周波のシグナルの取得はできていない。
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今後の研究の推進方策 |
中性子バックグラウンド低減のシールド等を設置、データ処理及び解析手法も、よりシンプルな体系でチェックしながら、精度向上の検討を行う。 なお電力増幅器については、施設側で機器を更新経費を出してくれることになり、H29年3月に新しい電力増幅システムを導入した。今後、さらなる高周波でコントラストの高いTOF-MIEZEシグナルの観測、研究目的の達成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
J-PARC/MLF BL06におけるTOF-MIEZE分光器の整備に予定よりも時間を要した。そのため、本課題の実験及びデータ処理も遅れている。TOF-MIEZE分光器は物性測定の装置であり、残念ながらこの課題のためだけに整備している訳ではない。本課題は物性測定よりも高周波のTOF-MIEZEシグナルが必要であり、より安定的にシグナルを取れる整備が必要である。全体としてバランスのとれた効率的な整備を目指し、その過程で電力増幅器の電気ノイズ等の問題に対応し、これらの対策等に時間がとられ、データ処理等の解析も遅れ、本課題の使用計画も遅れ、残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
バックグラウンド軽減及び試料環境の整備のための物品費として300千円。 J-PARC/MLFへの実験及び研究成果発表のための旅費を500千円。 また学術誌への論文投稿のための英文校正経費及び投稿費等の補助費として、残りの約150千円を利用する予定である。
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