研究課題
本研究では、イオンを1個1個固体表面に打ち込む、いわゆる単一イオン注入(Single Ion Implantation, SII)技術を、入射イオンとして多価イオンを用いる方法を確立し、SIIにより多価イオンを半導体などの表面に打ち込み、埋め込まれた原子の保有する量子状態を量子ビットとして利用することの可能性を探索する。多価イオンを用いると、SIIによる量子ビット作成において従来困難とされていた、イオン1個が入射した事象を100%の確度で検知することが可能となり、本研究により多数の量子ビットを配列させる必要がある実用的な量子コンピュータの開発に大きく寄与すると期待される。本年度は、昨年度開発した「その場STM」を収納する真空容器、多価イオンを真空容器内に搬送するビーム輸送系を製作した。「その場STM」とは、従来多価イオン照射と照射後の表面のSTM観察を別の真空系で行っていたものを、照射とSTM観察が同時に行えるように工夫した装置である。STM観察を真空中で行うためには、まずSTMチップと試料の距離をトンネル電流が流れる程度まで近づけるアプローチ機構が必要であり、大気中での動作を想定して昨年度製作し、使用したアプローチ機構を改良する必要がある。本年度はこれを考慮した、特殊なのぞき窓を備えた真空容器と、イオン源から水平方向に搬送される多価イオンビームを、ビームの特性を損なうことなく垂直方向に偏向させる四極ベンダー、および除振機構を備えた、真空系の支持架台を製作した。
3: やや遅れている
真空中でのその場STM観察を行うための、実験装置の構成部品の製作に当初想定したより時間を費やしたため。
単一イオン注入実現の全段階として、試料表面への多価イオン1個の入射と、入射直後での痕跡のSTM観察が必要である。これを可能にするためには、ピンホールを用いた多価イオンビームのナノサイズ化と、ピンホールがSTMチップの近くに設置されている必要がある。これを実現するために、AFM用市販カンチレバーのチップの近傍(1ミクロン以内)にFIB加工により大きさがnmオーダーの穴を設け、多価イオンのビームサイズを制限するピンホールとする。本研究の最終目標である単一イオン注入、すなわちイオンを1個ずつ試料表面に入射させるためには、1個のイオンの入射が確実に検知できなければならない。多価イオンが試料に入射したときに発生する大量の2次電子を荷電粒子検出器で計測して入射を知らせる信号とするが、多価イオンが試料以外の場所に入射したときに発生する2次電子をこの検出器が検出しないようにしなければならない。このため、荷電粒子の軌道シミュレーションにより、試料に対するマスクやカンチレバーの電位を最適化する。本資金の範囲で単一イオン注入を実現させるには困難が予想されるが、成功に近づける努力をしたい。
予定していた高圧電源の購入時期が遅れたため、残額が生じた。
来年度の高圧電源の支払いに使用する。
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http://doi.org/10.1380/ejssnt.2016.1
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