研究実績の概要 |
本研究では、イオンを1個1個固体表面に打ち込む、いわゆる単一イオン注入(Single Ion Implantation, SII)技術を、入射イオンとして多価イオンを用いる方法を確立し、SIIにより多価イオンを半導体などの表面に打ち込み、埋め込まれた原子の保有する量子状態を量子ビットとして利用することの可能性を探索する。 多価イオンを用いると、SIIによる量子ビット作成において従来困難とされていた、イオン1個が入射した事象を100%の確度で検知することが可能となり、本研究により多数の量子ビットを配列させる必要がある実用的な量子コンピュータの開発に大きく寄与すると期待される。 昨年度は、初年度開発した「その場STM」を収納する真空容器、多価イオンを真空容器内に搬送するビーム輸送系を製作した。ビーム輸送系は、多価イオン源から発生する多くの価数に分散した多価イオンのうちで特定の価数選別を行い、これを水平から鉛直方向に90度偏向させて「その場STM」に入射させる役割を持つ。「その場STM」とは、従来多価イオン照射と照射後の表面のSTM観察を別の真空系で行っていたものを、照射とSTM観察が同時に行えるように工夫した装置である。本年度はこのビーム輸送系の性能評価を行った。 これと並行して、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を幅1ミクロンの2電極(ソースとドレイン)に架橋したものに多価イオンを照射した。この試料の極低温での電圧電流特性を測定したところ、単一量子ドットの特徴である、クーロンブロッケードやクーロンダイヤモンド特性が観測された。
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