研究課題
本研究では、極短パルス高ピーク出力レーザーの最先端技術に基づく革新的なレーザー駆動複合量子ビーム照射場を宇宙機搭載電子デバイスの宇宙線影響評価へ応用することを目指し、発生放射線の基礎データ取得と半導体デバイス誤動作シミュレーション手法を開発することを研究目的にしている。本年度の実績は以下の通りである。1) 照射効果シミュレーション(担当:渡辺)粒子・イオン輸送計算コードPHITSを用いた電荷付与過程のシミュレーションを行った。シリコン単体に単一エネルギーのイオン(特に陽子、比較のための中性子)を単独で照射した場合を想定し、それぞれの応答(付与エネルギー分布)を計算した。また、関連する実験データの有無を調査した。さらに、宇宙環境下での陽子や電子のエネルギー分布情報の一例を入手し、カバーすべきエネルギー範囲を検討した。2) 生成イオンおよび電子計測システム開発(担当:渡辺と連携研究者)J-KAREN-P実験施設(JAEA関西光科学研究所)での実験を想定し、生成イオン(陽子及び重イオン)のオンライン測定用トムソンパラボラ型スペクトロメータ(TP)を開発中である。まずはPHITSを活用したTP専用シミュレータを開発し、系統誤差要因の抽出を行い、実験条件に応じたキャリブレーション手法を検討した。さらに、ラジオクロミックフィルム(RCF)を用いた電子線エネルギースペクトルの計測可能性を検討した。過去のRCF校正実験データを解析し、RCFの着色応答を線量分布に変換し, 入射電子線のエネルギーをある程度予測可能であることが実証できた。
3: やや遅れている
当初の平成27年度計画では、中性子計測システムの構築も含まれていた。しかしながら、トムソンパラボラ型スペクトロメータの開発やラジオクロミックフィルムを用いた電子線エネルギースペクトルの計測可能性の検討に時間を要したために、中性子計測システム構築に向けた検討・準備が十分に実施できなかったため、上記の自己評価となった。
関西光科学研のアップグレードされた極短パルス高ピーク出力レーザーJ-KAREN-Pを用いたレーザー駆動複合量子ビーム場の特性評価を行う。まず初めに、薄膜標的として実績のあるアルミ箔を用いてレーザー駆動複合量子ビーム場を発生し、CR39を層状に組み合わせた固体検出器とトムソンパラボラ型スペクトロメータで加速陽子や重イオンのエネルギー分布(陽子は~100MeVの分布を予想)とフラックスを測定する。次に、電子、中性子、ガンマ線計測系(液体有機シンチレータを用いた中性子・ガンマ計測系は本年度に開発予定)を導入し、それぞれの量子線の発生数を算出し、照射場の特性評価を行うことで、宇宙線環境模擬に適しているレーザー照射条件等を検討する。そのために、宇宙線実環境下でのイオン及び電子のエネルギー分布やフラックス情報を継続して収集し、宇宙線環境模擬条件をさらに検討する。照射シミュレーションについては、昨年度実施した単一ビーム照射シミュレーションをさらに発展させ、同時複合ビーム照射に条件を変えた場合のデバイス(単純なMOSFET構造)の過渡応答特性として、初期生成二次電荷の空間分布や過渡電流に着目したシミュレーションを実施する。この解析により、単一ビーム照射と同時複合ビーム照射の違いを明らかし、次年度の実験計画を立てる。
液体有機シンチレータを用いた中性子計測システム構築に向けた検討が遅れたため、新規購入予定の液体有機シンチレータ選定作業も遅れ、年度内に発注できなかったことが主な理由である。
平成28年度早々に上記液体有機シンチレータ(購入予定価格118万円)を発注し、それを用いた計測システムを構築し、九大にてテスト実験を実施する。その後、平成28年夏以降に予定されているレーザー実験(関西光科学研究所)で使用する計画である。
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