研究課題/領域番号 |
15K13412
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西森 信行 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (60354908)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自由電子レーザー / スミスパーセル放射 / テラヘルツ |
研究実績の概要 |
カスケードスミスパーセル自由電子レーザー(SP-FEL)により、エバネッセント基本波長でのコヒーレントスミスパーセル(SP)放射を実証し、高出力小型テラヘルツ(THz)光源を開発することが目的である。平成28年度は①電子源と②スミスパーセル放射光発生装置の整備をそれぞれ実施した。SP放射の実証試験は、ビームラインで発生した真空事故のため未実施である。 ①電子源整備については、昨年度までに光陰極電子銃から電圧150kVで電流1.3uAの電子ビームを生成することに成功した。本年度は大電流試験を目的として、ビームダンプの水冷と放射線遮蔽の整備、及びビームエキスパンダー設置によるビームダンプでのビームサイズ拡大を実施した。電子ビーム駆動用レーザーを5mWから3Wのものに交換した。これらを用いたビーム試験で、電圧150kVで最大電流4.3mAのビーム生成を達成した。当初の研究計画でSP放射実験を行うために必要と考えていた1mAを大きく超える性能である。その後、ビーム輸送試験中にビームラインのベローズに穴が開く真空事故が発生した。電子銃の性能回復に時間を要するため、SP放射実証実験は未実施である。 ②スミスパーセル放射光発生装置の整備では、昨年度までにインストールしたスミスパーセル放射用回折格子の直線導入機の動作確認と、回折格子位置でのスクリーンによるビームサイズ確認を実施した。THz光検出のためにダイオード検波器のテラヘルツ集光用ホーンを整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スミスパーセル自由電子レーザー(SP-FEL)を用いた高出力小型テラヘルツ(THz)光源開発を目的した本研究では、①電子源と②スミスパーセル放射光発生装置を整備後、③SP放射光実験を実施する計画である。 ①H28年度の光陰極電子銃開発計画は1mA以上のビームを生成することであった。電流値はパルスではなくDCであるため、150kVで1mAの場合150Wの熱をビームダンプで発生する。ビームダンプでの熱密度を下げるため、ビームサイズ拡大用ビームエキスパンダー整備、ビームダンプの水冷を実施した。H27年度までの約1uAから1000倍の電流増加に伴い、放射線発生も同じく増加するためビームダンプの鉛遮蔽を整備した。電流増のため電子銃駆動レーザーを5mWから3Wの大型のものに変更した。これらの整備後、0.5Wの駆動レーザーパワーで4.3mAのビーム生成に成功した。その後、大電流でのビーム輸送調整中に、ビームラインのベローズに穴の開く真空事故が発生した。ビーム試験前の状態に戻すには、電子銃やビームラインのベーキング、光陰極の活性化など大掛かりな作業が必要であり、現在準備中である。 ②スミスパーセル放射光発生装置の整備では、昨年度までにインストール済みのスミスパーセル放射用回折格子の直線導入機の動作確認と、回折格子位置でのスクリーンによるビームサイズ確認を実施した。THz光検出のためにダイオード検波器のテラヘルツ集光用ホーンを整備した。 ③SP放射光実験は、①で述べた大電流試験中の真空事故のため未実施である。 電子源の電流は当初の目標である1mAを大きく上回る成果を挙げたものの、真空事故のためSP放射光実験が出来ていないことからやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
スミスパーセル自由電子レーザー(SP-FEL)を用いた高出力小型テラヘルツ(THz)光源開発を目的した本研究では、①電子源の真空事故からの性能回復を行い、②スミスパーセル放射光発生実験を行う必要がある。 ①電子源開発については、H28年度までにほぼ目標を達成し、特に電流値については当初計画の4倍を達成した。今後は、真空事故以前の性能に戻すため、次のa)~d)の作業を実施する。a) 1Pa程度の大気に晒された電子銃とビームラインのベーキング及び極高真空への回復。b) 電子銃の高電圧印加試験。c) アルカリアンチモン光陰極の再活性化。ビーム位置モニターが少ないことが真空事故に繋がったため、d) スクリーンモニターの追加。 ②スミスパーセル放射光発生装置は、検出器の整備、試験用回折格子の整備が終了している。電子銃性能の回復後、回折格子面上でビームサイズを確認しTHz検出実験を行う。本THz SP-FEL研究ではカスケード回折格子を用いることが鍵となるので、THz検出実験の結果を元に、2段目の回折格子パラメータを決定し、カスケードSP-FEL実験を最後に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は、H28年5月に量研機構から東北大学に移籍した。本計画は量研機構電子銃をホームマシンとして、開発することが前提であったが、移籍後も出張し開発を続け、計画目標値を上回る150kV-4mAの性能を持つ電子ビーム生成に成功した。しかし、ビーム試験時中の真空事故のため、現在電子銃を運転できない状況にある。真空事故からの復帰に数ヵ月を要し、本年度内のスミスパーセル放射光実験は困難となった。次年度のスミスパーセル実験費、回折格子購入費に必要な資金として充てることにした。
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次年度使用額の使用計画 |
スミスパーセル放射光実験に必要な物品、特に回折格子購入やテラヘルツ検出器の周波数フィルターの購入に用いる。
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