カスケードスミスパーセル自由電子レーザー(SP-FEL)により、エバネッセント基本波長でのコヒーレントスミスパーセル(SP)放射を実証し、高出力小型テラヘルツ(THz)光源を開発することを目的とした。本小型光源は①電子源と②スミスパーセル放射光用回折格子装置で構成される。 ①本研究の結果、SP実験に必要な1mAを大きく上回る4.3mAの大電流ビーム生成に高電圧150kVで成功し、小型光源に向けて必要な電子源性能を達成した。しかし、H28年度の大電流ビーム試験中に、ビームの一部がベローズにあたり真空トラブルを引き起こした。その結果、電子源及びビームラインが1Paの空気に晒されてしまい、装置の回復作業が必要となった。 H29年度は装置回復に取り組んだ。まず電子銃本体の高電圧性能を回復するため真空作業を行い、200kV高電圧印可試験に成功した。次に、1Paの空気に晒されたアルカリ光陰極の量子効率を戻すため、再成膜を行い量子効率0.5%程度を達成した。トラブル前より量子効率が低く短寿命のため、シリコン基板を交換して再成膜する必要があることがわかった。 ビームラインにビーム位置モニターを追加し、真空事故の再発防止を図った。ビームラインのベーキング、非蒸発型ゲッターポンプの活性化には時間が足りず、H29年度中の再ビーム生成試験に至らなかった。しかし、電子源装置のほとんどはトラブル前の状態に回復済で、SP放射実験を再開できる環境を整えた。H30年度以降も実験を継続したいと考えている。 ②スミスパーセル放射光発生装置については、SP放射用回折格子と直線導入機をインストールし、回折格子位置でのスクリーンによるビームサイズ確認を実施した。THz光検出のためのダイオード検波器、テラヘルツ集光用ホーンに加え、H29年度には波長フィルターを整備しSP実験の準備を終えた。
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