研究課題/領域番号 |
15K13418
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西村 直志 京都大学, 情報学研究科, 教授 (90127118)
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研究分担者 |
新納 和樹 京都大学, 情報学研究科, 助教 (10728182)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 数値計算手法 / モーメント法 / 不連続Galerkin法 |
研究実績の概要 |
時間調和な Maxwell 方程式の波動散乱問題における従来のモーメント法は,低周波において破綻し,要素分割を細かくすると反復解法が収束しないと言う問題を抱えている.前者の解決策としては最近Hdiv内積を用いた有力な方法が開発されているが,後者の解決策であるCalderon の式に基づく前処理法は,Maxwell方程式においては未だに精度や効率の問題を抱えている.本研究は,この問題を解決するために補間関数の自由度の高い不連続 Galerkin 法を開発し,Hdiv内積を用いた算法と組み合わせることによって工学的に関心のある状況において常に良好に機能するモーメント法を開発することを目的としている. H27年度はMaxwell方程式における不連続Galerkin法の実装を完成し,種々の数値実験を行った.今後の双対基底の実装を想定して,基底関数はrooftop関数とした.種々のフラックス項(要素境界での不連続項)の検討を行ったが,一つのパラメータ(αstab)以外の影響は重要でなく,このパラメータをある程度大きくとることによって従来の解法より精度の良い数値解が得られることが分かった.ただし,計算時間はある程度増える. 研究開始前に予想していなかった進展として,不連続Galerkin法の基底関数は局所性が高く,グラム行列の処理が容易であることを上げることができる.このことを利用して双対基底を使用せずにCalderon前処理の効果を得る方法を検討したが,結局Calderon前処理には双対基底の使用は不可欠であるとの結論に至った.しかし今後の前処理法の研究においても,例えばグラム行列の逆の計算に疎行列の直接解法を使う等の展開が期待できるので,この局所性を今後の研究に生かして行きたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
不連続Galerkin法の実装が問題なく完了している点は予定どおりである.当初は2年目以後の課題と考えていた双対基底に関する考察とCalderon前処理を行う可能性について検討を始めることができた点では予定より早く進んでいるといえる.一方,Hdiv内積を用いた定式化にはまだ着手できておらず,この点では予定より少々遅れている.以上を総合して表記の判定とした.
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今後の研究の推進方策 |
H28年には予定どおり不連続Galerkin法への双対基底の実装を開始する.具体的には,各種の双対基底を検討し,昨年度具体的に考察を行ったrooftop関数に限らず,三角形要素も試してみる.この際,昨年度に気づいたDG法の基底の局所性を利用できることを意識して定式化と実装を行うように努める.また,本来の研究の動機が領域の角の存在と解析精度の劣化との関係にあったことを考慮しつつ,得られたコードの性能評価を行う.実装とその性能評価が完成し次第,Calderon前処理の検討に取りかかる.その際,Gram行列の逆を計算することが必要になると思われ,反復解法の収束性には疑問があることから,疎行列の高速直接解法の使用も検討する.昨年着手しなかったHdiv内積を用いた定式化の研究は,双対基底が出来上がってから着手するのが適切とも考えられることと,分担者の新納の海外出張の関係で,進捗状況によってはH29に持ち越す可能性もある.なお,rooftop関数を用いたDG法の研究成果については,研究の進捗を考慮して,適当な時期に論文にまとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はMaxwell方程式の不連続Galerkin法による境界積分法のコードを作成し,Hdiv内積を用いた定式化まで実行する予定であったが,研究の進展に伴ってHdiv内積を用いた定式化を次年度以後に繰延し,一方双対基底を用いないでCalderon前処理を行う構想を得たので,この研究を先行実施した.結果的には当初の28年度の研究計画にある「そもそも誘電体の積分法定式にDG法を用いた場合,双対基底が必要であるのか」と言う疑問に対して必要であるとの答えを得た形となった.以上の研究計画の変更に伴って新納の分担分の研究を繰延したため,研究費の使用額が当初の計画よりも少なくなった.
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次年度使用額の使用計画 |
新納が京都大学のスーパージョン万プログラムの派遣研究者として採用され,オーストリアのグラーツ工科大学に滞在するため,H28年度も当初計画より利用額は少なく推移することが予想される.新納の帰国後に集中して研究を進めることになるため,H29年度に当初予定より多くの支出が見込まれる.
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