研究課題/領域番号 |
15K13422
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
都築 暢夫 東北大学, 理学研究科, 教授 (10253048)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | F-アイソクリスタル / 数論的多様体 / Newton多角形 / 数論的Calabi-Yau多様体族 |
研究実績の概要 |
この研究では、幾何的背景を持つ数論的局所系を構成し、背景にある数論的多様体 (族) の幾何や数論を用いて、数論幾何学の様々な現象を実験的に考察する。そのため、射影直線から3点0, 1, ∞を除いたZ[1/2]上の曲線上の数論的一般超幾何 Calabi-Yau 族およびその中間次元のモチーフに対して、具体的な例だからこそできる数論幾何学の様々な予想を考察することを目的としている。特に、特異ファイバーでの半安定族の既約因子の保型性や、周期・中間Jacobi多様体の考察を行う。 28年度研究では、(1) 数論的一般超幾何Calabi-Yau多様体族の2進還元に関する考察、および、(2) F-アイソクリスタルのFrobenius構造から定まるNewton多角形につい考察した。 (1)の研究においては、2次元の場合の射影直線から3点0, 1, ∞を除いた曲線上の族としての2進モデルを構成した。その系として、ある具体的に与えられる大数体上で至るところ良い還元を持つK3曲面が存在することが証明出来た。 (2)に関しては、完全体上の正標数完備代数多様体上の任意のF-アイソクリスタルのNewton多角形が多様体上一定になるものを考察し、有限体上の楕円曲線がこの条件を満たすことを証明した。証明はL関数を使う今まであまり例のない方法である。この結果を数論的一般超幾何Calabi-Yau多様体に適用すると、各ファイバーでの任意のF-アイソクリスタルのNewton多角形が一定になることが証明出来る。(2)の一部分を、パドバ大学のセミナーで講演した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究では、数論的一般超幾何Calabi-Yau多様体族の様々な性質を、具体的な表示を用いて研究することを目的としている。 n次元のCalabi-Yau多様体の族は、Z上の射影直線から0, 1, ∞を除いた曲線T上のn個の射影直線の直積のあるブローアップしたものの2次被覆として構成される。2以外の素点では、統一的な扱いをでき、T上の射影的かつ滑らかな族をZ[1/2]上で構成できる。しかしながら、2進についてはこのモデルは伸びない。多様体の分岐に伴う導手などを具体的に求め、その期待される性質を確認するためには、2進モデルを具体的に考察することを必要とする。さらに、2のところの具体的振る舞いから、各ファイバーで保型性に向けた合同式からの評価が可能になることが期待できる。28年度の研究では、相対次元2の場合に半安定モデルを構成し、代数体上至る所良い還元となるK3を構成した。 標数pの代数多様体上のp進局所系であるF-アイソクリスタルのFrobeniusの作用から定まるNewton多角形の変動に関する考察を行った。これは、代数多様体上の多様体族の数論的性質を図る一つの不変量である。当研究では、有限体上の楕円曲線上のF-アイソクリスタルのNewton多角形は一定であることをL関数の合同式を用いて証明した。この方法は、L関数の数論幾何への活用方法として今まで考えられてなかった方法であり、とても独創的な方法である。さらに、数論的一般超幾何Calabi-Yau多様体にこの結果を適用すると、各ファイバーのCalabi-Yau多様体上でF-アイソクリスタルのNewton多角形が一定であることが証明できる。 後者の結果は、当初は予想されていなかった数論的多様体上のp進局所系の成果であり、当研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、数論的一般超幾何Calabi-Yau多様体族の各ファイバーの保型性に向けた考察を進める。また、高次元(5次元以上)の場合の退化ファイバーを考察して、半安定モデルの保型性を論じる。その際、数論的一般超幾何Calabi-Yau多様体族の具体的な表示を利用して、代数的対応を含めた考察を行う。高次元数論的多様体の具体的な構成は容易でなく、興味がある例は多くはない。数論的一般超幾何Calabi-Yau多様体族を、退化の手法を用いて具体的に考察していくことで、数論幾何学の期待される現象を明示的に考察していく。 標数pの代数多様体上のp進局所系であるF-アイソクリスタルのFrobeniusの作用定まるNewton多角形の変動に関する考察を引き続き行い、多様体上の階層構造を考察する。射影的多様体のみでなく、開多様体上の族の超特異点の階層構造の決定などに応用する。数論的な性質とNewton多角形の変動を、例えば代数曲線上ではNewton多角形がジャンプする点の個数などを具体的に評価する。 両者の研究を通して、数論的多様体やその上の局所系の性質、特にp進的な性質を、具体的に考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は台湾大学における研究発表と、最新の成果に関する研究連絡をしたが、学内業務多忙のために、先方との日程調整がつかなかった。29年度の渡航の調整をしている。
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次年度使用額の使用計画 |
経費は主に、 代表者と連携研究者の研究打ち合わせ及び成果発表の旅費として使用する。
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