研究課題/領域番号 |
15K13422
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
都築 暢夫 東北大学, 理学研究科, 教授 (10253048)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | F-アイソクリスタル / Newton多角形 / 数論的多様体 / 数論的一般超幾何カラビ・ヤウ多様体族 / 代数曲線族のisotriviality |
研究実績の概要 |
昨年度の楕円曲線の場合の研究に引き続き、29年度の研究では有限体上のアーベル多様体上の任意のF-アイソクリスタルの各点でのNewton多角形が一定になることを証明した。鍵になるのは、射影的滑らかな代数曲線上のF-アイソクリスタルのNewton多角形がジャンプする点の個数を、Frobeniusのべき数、曲線の種数とF-アイソクリスタルの階数から決まる定数で上から評価することである。その証明ではL関数の法p還元による合同を用いる新しい方法を導入した。さらに、その応用として、代数的基本群の変動の研究におけるSaidi-Tamagawaの方法を利用して、アーベル多様体上の代数曲線の族がisotrivialになること、すなわち、底空間から代数曲線の粗モジュライへの写像が定値になることを証明した。アーベル多様体上の代数曲線族のisotrivialityは、複素多様体においては種数2以上の代数曲線の粗モジュライの双曲性に帰着されるものである。この結果の論文は現在投稿中である。また、Journee Arithmetiquea Villetaneuse(パリ13大学)等の研究集会やセミナー等で発表した。 F-アイソクリスタルの拡張問題について考察し、数年前に研究を開始していた局所完全交叉多様体の場合に、余次元2の閉部分を除く制限関手が充満忠実となることの証明を完成させ、余次元3以上の場合に圏同値になる具体的な例を考察した。エタール層の場合はGrothendieckにより証明されていることであるが、良いコホモロジーの係数理論において働く証明を与えることができた。この結果は、研究集会「p進コホモロジーと数論幾何学」(2017年11月・東京電機大学)にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
数論的代数多様体上の局所系を実験的に研究するのが本研究課題のテーマであった。29年度の研究では、28年度までの研究で楕円曲線の場合に証明が得られていた正標数代数多様体上のp進局所系であるF-アイソクリスタルのNewton多角形の一定性を、アーベル多様体に一般化することが出来た。さらに、その応用として、代数的基本群の変動の研究においてSaidi-Tamagawaが用いた方法とMoret-Baillyらによる正標数アーベル多様体のモジュライの研究を利用して、アーベル多様体上の代数曲線族のisotrivialityを得ることが出来た。F-アイソクリスタルのNewton多角形が常に一定となる代数多様体では、Deligneによる小同士予想(未解決である高次元多様体上のl進表現からF-アイソクリスタルを対応させる部分)を解決出来る可能性がある。また、この性質を満たす射影的代数多様体においては、代数曲線族のisotrivialityが成り立ち、複素代数多様体上のアーベル多様体の場合の類似を与える。それだけでなく、逆に、任意のF-アイソクリスタルのNewton多角形の一定性が成り立つ代数多様体の複素多様体における類似を考察する新たな問題を提出したことになる。 正標数の局所系の大域的性質と複素多様体との類似という観点から、今まで知られていなかった結果を与えることが出来たので、この研究は当初の計画以上に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、 (i) 数論的一般超幾何カラビ・ヤウ多様体族の退化ファイバーの半安定性と半安定ファイバーに現れる多様体の考察 (ii) 29年度の研究で得られた代数曲線上のF-アイソクリスタルのNewton多角形の変動の代数閉体上での考察 を進め、これまでの成果を進展させ、精緻な結果を目指す。高次元数論的多様体の具体的構成は容易でないが、研究代表者が構成した数論的一般超幾何カラビ・ヤウ多様体族は非常に興味深い族である。退化の手法でこの多様体族を具体的に考察することで、数論幾何学において期待される現象の当否を具体的な場合に検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究代表者は台湾大学において関連する研究分野の研究者と研究連絡をする予定であったが、学内業務多忙で先方と日程調整がつかなかったために、次年度使用額が生じた。 (使用計画) 経費は、主に研究代表者と連携研究者が成果発表の旅費として使用する。
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