トーリック多様体は実空間の有理的な凸錐体の集まりである扇により記述できる正規代数多様体である.しかし,それを離散群の作用で割ってできる多様体やそれから得られるカスプ特異点を記述するには扇では不十分であり,その概念の拡張が必要であった.それを実行するため,最近得られたトーリック型カスプ特異点の数々の実例を踏まえて,代表者が以前カスプ特異点のゼータ零値の有理性を示すために導入した「T 複体」の概念を拡張して形式扇の理論の構築を行っている.代数多様体の理論の基礎付けであるグロタンディークのスキーム理論に形式スキームが定義されているように,トーリック多様体を記述する扇を一般化したものとしてこの形式扇の理論を整備し,再びカスプ特異点などの研究に役立てるのが研究目標である.形式扇の定義は自然に形式スキームあるいはスタックが対応するよう慎重に行っており完成に近づいている. 2017 年 9 月に大阪大学で開かれた第 62 回代数学シンポジウムでこれまでの研究成果の発表を行った.またこの発表の報告集ではカスプ特異点の任意の体上での構成を形式スキームの理論を用いて記述した.この報告集は日本数学会代数学分科会のページで見ることができる. また,土橋氏により 4 次元の正 24 面体の幾何学を用いて新しく構成された 4 次元トーリック型カスプ特異点は,その非特異化における例外因子が 4 つの 3 次元非特異トーリック多様体からなり,これらが互いに単純正規交叉している.このカスプ特異点はある 4 つの頂点からなる図式から得られる無限コクセター群の指数 48 の部分群により構成されるが,この部分群を詳しく調べることにより,4 つのトーリック多様体が 48 個ある通常 4 重点でどのように交わっているかを具体的に記述した私の計算結果もこの報告集に記載した.
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