研究課題/領域番号 |
15K13426
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今野 一宏 大阪大学, 理学研究科, 教授 (10186869)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 可約曲線 / 微小変形 |
研究実績の概要 |
国内旅費を活用して,各地で開催される研究集会やセミナーに積極的に参加した.また,外国旅費により蘇州工科大学を訪問し,セミナーにおいて2次元正規特異点の数値的Gorenstein性判定に関する研究成果を発表した.このように様々な研究者と直接に出会って議論を戦わせることを通して,資料収集や研究打合せを行い,研究対象に対する理解をより一層深めた.さらに「代数曲面論ワークショップ」を年3回共催し,研究集会「Branched Coverings, Degenerations, and Related Topics 2018」の開催をサポートした. 本年度は特異曲線の複素構造の変形に重点を置いた研究を行った.すなわち,非特異代数曲面上の可約で被約でない正因子について,そのサポートにおける交点形式が半負定値であるという仮定の下で,その複素構造の微小変形およびその倉西空間を研究した.この仮定は,代数曲線束の特異ファイバー等特異変形を念頭に置いたものであり,倉西空間の研究は周期写像を考察する際に定義域の幾何学的特性を理解するために必要である. 良く知られているように,閉リーマン面のモジュライ空間は,種数を決める毎に連結である.そこでまず,特異ファイバーの等特異的変形をパラメトライズする空間の連結性を明らかにしようと考えた.その結果,代数曲線束の正規極小モデルとなる特異ファイバーに対しては,その既約成分の数,種数,それから重複度からなるデータを固定すれば,パラメータ空間は連結であることを示すことができた.これは,特異点の場合,すなわち交点形式が負定値の場合の,ラウファーの定理に相当する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
個々の話題を取り上げれば,研究の進捗状況は概ね良好である.しかし,当初の楽観的に過ぎた研究目標を理想的到達点とすれば,満足のいくものではなく,やや遅れていると評価せざるを得ない.研究過程で表面に出てきた標準線形系の基点の情報を取り込むことについて,全く目処が立っていないことが主な理由である.一方,今年度の微小変形に関する成果は,半安定還元でなく,より扱いやすい正規極小モデルとの比較に問題を還元できる可能性を示唆している.
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今後の研究の推進方策 |
上でも記したように,これまでの考察から正規極小モデルを主な考察対象すればよいことがわかった.このときファイバー成分の重複度は,モノドロミーのデータから読み取れるので,既知量とみなしてよいから,被約因子としての曲線を回復することさえできれば,退化ファイバーが復元されると考えてよい.従って,算術種数に関する帰納法が適用できる可能性がある.今後はこれを被約因子の数値的連結性との関連において考察する.数値的2連結性を仮定すれば,算術種数が正のときには標準線形系の基点がないので,こういった仮定の下に肯定的な結果を導きたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
海外研究協力者との共同研究を兼ねたセミナーにおける研究成果発表のために,12月に渡欧する予定だったが,先方の健康上の理由により当初計画通りの実施が不可能になった.この研究成果発表は研究計画遂行のためには必要不可欠だから,再度日程調整を行い今年度中の実施の可能性を模索したが,業務の多忙のため日程の摺合せが難しく,年度内に研究計画を完了することが極めて困難となった. 上の成果発表を実現するための旅費および滞在費に充てる予定だが,それが困難である場合には,国内の研究集会に出席し,研究推進のための資料収集や研究打合せ,研究成果発表に用いる.
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