研究実績の概要 |
本年度は, 齋藤は, S. Szaboと曲線上の放物接続と放物Higgs束のモジュライ空間の幾何学について,スペクトル曲線と見かけの特異点理論を用いて研究した. 稲場がある種の正規化した分岐不確定特異点を持つ放物接続のモジュライ空間の構成に関するプレプリントにまとめたので議論した. 稲場と齋藤は,スペクトル型を固定した放物接続のモジュライ空間を構成し,モノドロミー保存変形の微分方程式が幾何学的パンルヴェ性を持つことを示した.スペクトル型が重複度を持つ場合には, モジュライ空間の次元が一般的な場合に比べて低くなるので,2次元,4次元などのモジュライ空間の構成に必要である.坂井らによる4次元パンルヴェ型方程式で対応する線形接続が確定特異点の場合は,モノドロミー保存変形の方程式の幾何学的パンルヴェ性についても厳密な証明を与える事になる.今後は,不確定特異点を許す場合への拡張が問題である.光明と齋藤は,射影直線上の階数2の確定特異点のみをもつ放物Higgs束と放物接続を見かけての特異点の理論を用いて,モジュライ空間の普遍族を具体的に構成した. 特にバンドル型の跳躍現象を具体的に与える事が出来た.幾何学的ラングラン対応を,n=5の場合にArinkin達のn=4の結果を拡張を試みた. 放物接続のモジュライ空間およびそのコンパクト化は4次元非代数多様体であり,一方放物束のモジュライ空間は, 2次元であるが非分離な空間であり解析が難しい.フーリエ・向井変換により幾何学的ラングランズ対応を与える為に, その核層となるベクトル束の候補を見つける事が出来た.そのコホモロジーの消滅を示す事が今後の課題である.今後,見かけの特異点の理論などにより,モジュライ空間のより詳しい記述が可能となる事が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は齋藤は, 5月に国立台湾大学で国際研究集会「Flat connections, Higgs bundles and Painleve equations」において, 放物型Higgs束と放物型接続のモジュライ空間の幾何学とパンルヴェ方程式について2回の連続講演を行った.Ecole PolytechniqueのC. Sabbah, ManheimのC. Hertling, 国立台湾大学のC-S. Linと接続のモジュライ空間について議論した.また,韓国高等研究所(KIAS)における「KIAS Workshop onHiggs bundles and related topics」に招聘され同様のテーマについて,3回の連続講演を行った.また,米メリーランド大学のR. A. Wentworth,シンガポール国立大学のG. Wilkin,KIASのJ. Parkとモジュライ空間の幾何学や,モジュライ空間上のτ関数について討論した.7月に, 米国で開催された2016 AMS von Neumann Symposiumに招聘され, 招待講演を行った.主催者の村瀬元彦やM. Liuらと量子曲線, 位相的漸化式と接続のモジュライ空間の関係について議論した.8月に, 国立Singapore大学の研究集会に招聘され,招待講演を行った.12月に神戸大学で行われた国際研究集会「Algebraic Geometry and Integrable Systems, Kobe 2016」でも講演を行い, C. Simpson, F. Loray, R. Donagiとモジュライ空間の幾何学,幾何学的ラングランズ対応について議論した.2017年3月に,インド・ムンバイのTata研究所に招聘され,招待講演を行い, 望月拓郎,I. BiswasとG接続のモジュライ空間の構成について議論した.
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今後の研究の推進方策 |
見かけの特異点の理論を用いて, 確定特異点のみを許す代数曲線上の放物Higgs束や放物接続のモジュライ空間の構造を精密に記述する方法を確立するために, 関係研究者や大学院生の協力を得て,具体例の計算を行う.また,対応する放物ベクトル束のモジュライスタックの非分離構造の解析等についても,具体例を検討する事により深い知見を得る.高次元代数幾何学の手法を用いて, モジュライ空間のコンパクト化やその境界に現れる代数多様体の構造を詳しく検討し,またその上のベクトル束やそのコホモロジーの計算手法を開発する.これにより,幾何学的ラングランズ対応を4次元の場合に確立する事を目指す.不確定特異点を持つ放物接続のモジュライ空間の構成は, 稲場・齋藤により不分岐の場合,稲場により最近,分岐する場合を含めて完成しつつあり,シンプレクテック構造の記述や,リーマン・ヒルベルト対応の幾何学も完成しつつある.この場合の幾何学的ラングランズ対応も考察する.Higgs束のモジュライ空間については,スペクトル曲線の幾何学,不確定特異点と特異点解消の関係なども興味があり,重要課題であると認識する.国内外の関係研究者と研究打ち合わせやワークショップの開催により共同研究を行い, 理論の発展を図る.特に,ブダペストのS. Szaboや,RennesのF. Lorayを訪問するか,招聘する事により共同研究を進める.特に,モジュライ空間上の二つのラグランジュアンファイブレーションの横断性について議論する.フランスLuminyで行われる,Stokes現象とHodge理論に関する研究集会に招聘されているので,研究会に参加し, 不確定特異点やStokes現象に関する幾何学やリーマン・ヒルベルト対応について理解を深め、不確定特異点の場合のリーマン・ヒルベルト対応の幾何学の明確な定式化を目指す.
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