研究課題/領域番号 |
15K13435
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
印南 信宏 新潟大学, 自然科学系, 教授 (20160145)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 平行線の理論 / フィンスラー幾何学 / ブーズマン関数 |
研究実績の概要 |
ブーズマンが開始した平行線の理論は、非正断面曲率の完備リーマン多様体に関する無限遠点の幾何や測地流の研究などに多く利用されている。その際に重要な働きをするのが漸近線の関係が同値関係になることである。特に、測地流の研究では、ブーズマン関数が2階連続的微分可能になる性質が役立っている。しかし、一般に、ブーズマン流の定義では、平行線の関係は同値関係にはならないし、ブーズマン関数の2階微分可能性も成立しない。共役点を持たない完備リーマン多様体においては、測地線に沿う安定ヤコビ場が有界でるときに、平行線関係の同値性やブーズマン関数の2階微分可能性が証明されている。 本年度の研究において、完備フィンスラー多様体上で、平行線関係の同値性とブーズマン関数の2階微分可能性の関係を遠方の点までの距離関数の3階微分の有界性を使って明らかにした。この研究で採用した仮定と従来の仮定との関係は不明であるが、測地線に沿う安定ヤコビ場が有界でない2階微分可能なブーズマン関数は存在する。 ブーズマンの意味での平行線関係は射影変換を施しても保たれる。閉1次微分形式によるランダース変換は射影変換なので、平行線の関係が同値関係となる計量から同じ性質を持つ計量が容易に構成できる。このことに注意して、リーマン幾何では知られていない平行線関係が同値関係となるリーマン計量の構成法を見つけた。平行線の理論のもう一つの有用な応用は、平坦帯定理を用いたリーマン多様体の剛性定理であるが、フィンスラー幾何学で剛性定理を扱うのは不向きであることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究実績では、非対称な距離空間としてのフィンスラー幾何学にあまり貢献していないが、リーマン幾何学への一つの応用の仕方を提案した。しかし、閉1次微分形式によるランダース変換が射影変換である事実を思い起こしたことは、新規研究に大いに役立つように思われる。射影変換によって、共役点軌跡は不変であるが最小跡は変化する。したがって、1次元ド・ラームコホモロジー群と最小跡の変化の関係が研究対象となってきた。また、最小跡に関心が向いたことにより、最小跡の最近点に関するクリンゲンバーグの定理の研究やもっとも単純な最小跡構造を持つフィンスラー多様体の構造の研究にも進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
フィンスラー計量から導入される内部距離に関する三角不等式は、大体ホイヘンスの原理と同値である。この事実は、ホイヘンスの原理が成り立つ現象が波の伝搬に止まらず広範な現象で起こりうることを示唆している。この観点に立って、三角不等式を中心においた研究を進める。波源から出た波が再会する点が最小跡である。最小跡の最近点に関するクリンゲンバーグの定理の研究から、距離関数の臨界点を調べ、多様体の位相構造の研究を進めたい。最小跡の微分可能な点と最短測地線の集合との間の関係の研究から始める。
|