研究課題/領域番号 |
15K13440
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
坂井 哲 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50506996)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イジング模型 / 臨界現象 / 1-arm指数 / 低温相 / 確率幾何的表現 |
研究実績の概要 |
本課題は,強磁性イジング模型に対する次の2つの未解決問題に取り組むことである.(1)プラス境界条件下での有限系1スピン期待値の自発磁化への収束の様子を明らかにすること.(2)低温相において帯磁率(=2スピン共分散の和)が収束することを証明すること.
(1)の問題に関しては,特に臨界点直上における減衰の様子が系の大きさの冪になっているとの予想を解決することに全力を投じた.これは臨界現象の数学的に厳密な研究の中でも(並進対称性の不成立により)難問として残っているものの一つである.我々は「ランダムカレント表現」という確率幾何的表現を用い,プラス境界条件下での有限系1スピン期待値の解析を行なった.その結果,まだ不十分ながらも,従来知られていた冪指数の上限を改善することに成功した.これは,共同研究者である半田悟氏の修士論文にまとめられた.
(2)の問題に関しても「ランダムカレント表現」を用いて2スピン共分散の確率幾何的表現を導出し,その和に対する微分不等式の導出を試みた.一時,AizenmanとDuminil-Copinが同様のアプローチで問題を解決したというニュースが流れたが,後日その論文が取り下げられたことにより,現在も未解決のままになっている.高温相における2スピン共分散の振る舞いを解析するには,2つのカレント配置の重ね合わせに対する組み合わせ論が重要な役割を果たすが,低温相では重ね合わせるカレント配置が最低でも4つになる.それを理解するための組み合わせ論はまだ確立できていないが,少しずつ知識を蓄えつつあるのが現状である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の問題(1)「プラス境界条件下での有限系1スピン期待値の自発磁化への収束」の臨界点直上での考察に関しては,「ランダムカレント表現」を用いて1スピン期待値を評価する相関不等式を幾つか導出することに成功した.そのうちの一つを用い,上述の収束の様子を表わす臨界指数(1-arm指数)が,上部臨界次元4より高次元dで(d-3)/2以下であることを証明することに成功した.これは,従来知られていたハイパースケーリング不等式による上限(d-2)/2を1/2だけ改善したことになる.微々たる改善だが,有限系1スピン期待値が並進対称性を持たない難しい観測量であることを考えると,この改善は馬鹿にはできない.この結果は,共同研究者である半田悟氏の修士論文にまとめられた.
しかし,物理的な直感に基づく予想では,d>4における1-arm指数は1に退化するはずである.最低でも「d≧5で1以下」を目指さなければならない.もう一つの1スピン期待値に対する相関不等式が上手く行きそうな傍証も集まりつつあり,研究は「おおむね順調に進展している」と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
上述の「現在までの進捗状況」のところで触れた,「もう一つの1スピン期待値に対する相関不等式」を詳しく解析していく計画である.これはランダムカレント表現と「2次モーメント法」として知られているPayley-Zygmund不等式を合わせて得られる相関不等式である.現在のところ,粗い評価ながらも,予想されている「d≧5で1以下」が得られそうな傍証が集まりつつある.まだ幾つか問題が残っているが,共同研究者であるMarkus Heydenreich氏(ドイツ)と半田悟氏と意見交換をしつつ,問題を解決する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画に無かった出張費用にPCの購入費として計上していた分を充てたため.残額では予定していたPC購入ができないため,次年度の予算と合わせたい.
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次年度使用額の使用計画 |
予定していたPC購入を繰越金を用いて行なう予定.
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