研究課題/領域番号 |
15K13450
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
名和 範人 明治大学, 理工学部, 専任教授 (90218066)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非線形偏微分方程式 / 確率過程論 / 解の爆発 / 基底波解の存在 / 乱流 / シュレーディンガー方程式 / オイラー方程式 |
研究実績の概要 |
二つの引力として働く多項式型の非線形項の和で表わされるような,局所型相互作用項を持った非線形シュレーディンガー方程式に対して結果を得た。最近,取り組んでいる問題の一つが,基底波解の周辺の解軌道の分類定理であるが,我々の方程式は二つの相互作用項の和となっていて大きい方の指数がソボレフの臨界指数であるという意味で,従来より広いクラスの非線形項を扱っている。この分類定理の証明の最初のステップとして基底波解の存在とその性質を知ることが重要であるが,低い周波数帯の場合に解の存在と基底波解の定めるポテンシャルの井戸の少し上の領域までの解軌道の分類を球対称解の場合に行った。非線形項の小さい方の指数は擬共型不変な場合の指数まで下げられると予想されるが,技術的な理由で少しギャップがあるが,ギャップを埋めるべく研究を継続している。また,高い周波数帯の場合の定在波解の存在と一意性及び非退化性を証明することができたので,この場合も同様な解の分類定理を証明することができる感触を得た。 擬共型不変な非線形シュレーディンガー方程式の爆発解の爆発の速さが,解の背景にあるネルソン拡散過程と呼ばれる確率過程を定める伊藤型確率微分方程式のブラウン運動を利用して評価できる。上からの評価に対しては解の形状に関してある仮定をおいているが,これまでの結果をまとめているところである。この仮定はもっともらしく,普遍的なものであると考えられる。 確率過程論の立場から古典乱流のモデルの再構築を試みている。古典的なコルモゴロフの乱流理論とオンサーガーの乱流に対する予想を確率過程論の立場から見直した以前に得られた結果をもとに,非圧縮性オイラー方程式の散逸的弱解のある種のクラスを乱流と呼ばれる属性を持った流れの場のサンプルと考えて,統計力学的な視点を導入することで乱流モデルができる可能性についてまとめたサーベイ論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
擬共型不変な非線形シュレーディンガー方程式の爆発解の爆発の速さが解の背景にあるネルソン拡散過程を利用して評価できることは,ある程度満足のいく結果が得られているが,上からの評価に対しては解の形状に関してある仮定をおいている。この仮定はもっともらしく,普遍的なものであると考えられているが,数学として厳密に証明できていない。
ソボレフ臨界指数を非線形項に含む非線形シュレーディンガー方程式の基底波解の周りの解軌道の分類定理を期待される非線形項を完全に含むような形で証明できていない。しかしながら,基底波解の性質はかなり詳しく分かってきた。また,上述の爆発問題と同様に散乱問題の解析にもネルソン拡散過程を利用することができそうだが,まだ完全な数学的方法論を確立できていない。
乱流のモデルとして非圧縮性オイラー方程式の散逸的弱解を考えることは大変に興味深いが,未だ発見的な議論に留まっている。この方程式の探求は,量子乱流の解析とリンクさせることで非線形シュレーディンガー方程式の解の性質を知る上でも重要であるように思える。特に非線形シュレーディンガー方程式の解の位相部分の性質を知るための新しい方法論を提供してくれるように思われるが,厳密な数学解析に耐えうるような量を確定できていない。
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今後の研究の推進方策 |
走化性方程式の爆発解で使われている解析手法が非線形シュレーディンガー方程式の解析に援用できそうであり,また,その逆も可能と思われるので,走化性方程式の研究者との議論を継続して情報交換にも務める。
非線形偏微分方程式の爆発解の爆発の速さを数値解析的に解析するにあたって,方程式にある種の相似性があれば,その性質をうまく利用して爆発解の爆発の速さを決定するアルゴリズムが,研究協力者らによって見つかっている。このアルゴリズムが非線形シュレーディンガー方程式に対しても有効かどうか確認する。もし有効であれば,本研究課題の推進に大いに役立つと考えられる。
本研究課題で探っている理論の方向性やその正しさを確認する上で,直感的な描像を得ることも重要であると考えられるので,周辺分野の研究者たちと,非線形シュレーディンガー方程式の爆発解の形状に関する数値的な検証や,非圧縮性オイラー方程式の散逸的弱解の可視化の議論を深めていく。力学系の理論を用いた非線形シュレーディンガー方程式の基底波解や定在波解の解析の重要性も増してきているので,力学系理論によって得られる成果と変分法的な議論とを比較検討しながら議論を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年8月の母の死後,寝たきりの妹の後見人の選定および相続や介護の問題で郷里に何度も帰省しなければならなくなった。2016年末に妹の後見人に選定されたが,その業務の遂行に加えて,相続問題をめぐっては妹の後見人としては利益相反の関係に当たるため,手続きなどに多大の時間を要することとなった。また,その間,本事業の研究代表者自身の健康状態が悪化して,通常の大学の教育業務などに加えて研究を遂行することが困難になっていった。一時は頚椎の手術も検討しなければならない状況になったが,現在は小康状態であり通常業務の遂行には支障がない。このような状況であったため,研究の遂行に集中することが困難であった。また,海外の共同研究者を訪問する予定であったが,上記の理由のため諦めざるをえなかった。 最近の研究動向や情報収集のために様々な研究集会やセミナーへ参加できるようにスケジュールの調整を行う:海外の共同研究を訪問する計画も立てている。最近では,様々な数理モデルにおいて力学系的な視点の重要性も増してきており,このような方向性も有望と思われる。また,非線形偏微分方程式の爆発解の解析に関しては,近年,非線形シュレーディンガー方程式の以外の非線形方程式においては理論と数値計算の共同による成果が上がってきている。そこで,これらの分野の研究者との交流や議論の機会を研究集会やセミナーへの参加を通して増やしていく。
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