研究課題/領域番号 |
15K13453
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
小布施 祈織 岡山大学, 環境生命科学研究科, 特任助教 (90633967)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / N体問題 / Navier-Stokes方程式 / 数理モデリング / 数値計算 / 応用数学 |
研究実績の概要 |
1.ナノ粒子分散系のダイナミクスに対する「下から上への評価」、すなわちナノ粒子および凝集体を離散個体として扱う流体内N体問題を基盤とした数値計算を通して研究を進めるため、Navier-Stokes方程式とN個体の運動方程式を埋め込み境界法にて解く数値計算プログラムを作成した。
2.2で作成したプログラムを用いて様々なパラメータ値と初期条件のもとで数値計算を行った。下流における凝集体のサイズの期待値を、流れの速度についてグラフ化したところ、連携研究者から提供された実験データと概ね整合的な結果が得られた。またナノ粒子再分散のメカニズムについて、再分散能力の高いナノ粒子の設計につながる可能性のある、下記の特徴が示唆された。 ・流れが早い場合には、ナノ粒子凝集体の内部に流体がほとんど入り込めず、ナノ粒子の再分散は主に凝集体同士の衝突または流れのシアによって起きる。一方、流れが遅い場合には、流体が凝集体の隙間に入り込み、凝集体を校正するナノ粒子同士の引力を内側からゆるめ、ナノ粒子を再分散させる。後者の傾向は特に、ナノ粒子の表面修飾による隙間の存在が重要であり、再分散能力の高いナノ粒子の設計につながる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では、「離散・連続に続く新たな数理的概念の提案と、それに基づく、分離困難な多重スケールを持つ現象の数理的記述および理解の探求」を目標としている。これはH27年度に得られた混相流仮定による「上から下への評価」の数値計算データと、今年度に取り組んだ、体内N体問題仮定による「下から上への評価」の数値計算データ、さらには実験室での実験データを組み合わせ、H29 年度に理論を組み立てていく予定である。
H28年度には、ナノ粒子分散系のダイナミクスを流体内N体問題として表現する数値計算コードの作成を行い、数値計算データが示す特徴と実験データが示す特徴の整合性を確認できた。この結果は、H27年度の混相流仮定においてもH28年度のN体問題仮定においてもナノ粒子再分散は実験データと同様の傾向を示すが、そのメカニズムは異なっていることを示しており、「離散と連続の中間的な概念」を考える上で、有用なヒントとなり得る。しかしながら、H28年度は、プログラム作成の際に諸々の問題が生じ、その解明および回避に時間がかかったため、当初予定していたデータ収集の最終段階までは進むことができなかった。それにより、研究実績の概要2で述べた、流れの速さによる再分散メカニズムの違いについて、傾向の示唆得る段階までしか進めなかった。また、「離散と連続のちがい」を十分に示唆するデータを入手する段階まで達することはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1.H27年度の課題の続きに取り組む。具体的には、研究実績の概要2で述べた、流れの速さによる再分散メカニズムの違いについて、示唆されている傾向の確証を得るため、より精密かつサンプル数の多い数値実験を行う。
2.1のことについて、簡単な数理モデルを作成し、数値実験から示唆されている傾向の裏付けを行う。
3.H27年度H28年度に得られた結果、実験室データ、そして上記1,2で得られる結果を基に、混相流モデルと流体内N体問題モデルそれぞれの長所および短所を明らかにし、「離散と連続の中間的概念」に基づく系の数理モデル作成に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度は、議論、研究発表、および情報収集のための出張を多く予定していた。また、規模の大きい数値実験を行うための、計算機購入も予定していた。しかしながら、数値計算コードの作成と問題設定の見直しに時間を要したため、複数回の研究発表および計算機購入は行わず、その分の研究費をH29年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
ある程度データがまとまった段階で、流体力学会、物理学会、数学会、および諸研究集会に出席し、積極的に研究発表および議論を進めていく予定である。そのため研究費は主に、学会・研究会出席および京都・仙台での研究打合せのための出張旅費に使用する。また多数の数値実験および大きなデータの処理を予定しているため、物品費は主に、計算機およびデータ解析ソフトウェアなどの購入、離散・連続の概念に関する書籍の購入に使用する。
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