本研究対象である現象はいくつかの要素となる素過程から構成されているが、素過程のうち重要なものは溶解、凝集ならびに拡散である。 (1)凝集について:研究期間全体を通じて、考察している領域の境界に粒子が集中しているものとして、拡散した後の観測データから境界における集中の様子を決定するという逆問題を考察してきた。一意性などを数学解析の観点から確立し、誤差の入ったデータから境界での状況を再構成するアルゴリズムを開発した。さらに、凝集と関連した現象として、粒子が媒質の中で成長していく現象のモデル式の1つであるタイム・コーン法の考察を進め、粒径成長をもたらした原因を決定する逆問題の数学解析と数値解析を行った。タイム・コーン法に対するそのような逆問題は実は多様体の族でのある積分値が与えられたとして、もとの関数を決める積分幾何学の問題と、双曲型偏微分方程式を介して関連していることが明らかになり、製鉄業などの結晶構造の最適設計などに応用された。 (2)拡散について:本研究の課題である特異拡散を特徴付ける要素として、低速の拡散と拡散物質の密度がソースの近くに長く留まるという二つをあげることができる。そのような特異拡散現象のモデル式として、種々の非整数階偏微分方程式の数学解析を行った。この方程式は、古典的な移流拡散方程式に時間について非整数階の微分が加わった方程式であり、本研究により、非整数階偏微分方程式が、低速の拡散と上記のような物質のソース近くでの停留現象を数理的に説明できることが明らかになった。さらにそのよな非整数階偏微分方程式に関して、最大値原理や漸近挙動などの解の定性的な性質を確立した。
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