研究課題/領域番号 |
15K13457
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 佳正 京都大学, 情報学研究科, 教授 (50172458)
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研究分担者 |
關戸 啓人 京都大学, 情報学研究科, 特定助教 (40718235)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 応用可積分系 / 直交多項式 / 相対精度 / 特異点閉じ込め |
研究実績の概要 |
本研究では,「可積分アルゴリズム」であるqd 法に対して,離散可積分系の特異点閉じ込め性と直交多項式の正値性を保存する変換理論を駆使して初期値の情報を失うことなくブレークダウンを回避し,高い相対精度を保って固有値計算を続行する手法を開発し,その実装コードを公開することを目的としている. 平成28年度は,特異点閉じ込め性によるブレークダウンの回避として,qd法の漸化式の従属変数変換で得られるエータアルゴリズム,さらには,それを変数変換したイプシロンアルゴリズムの漸化式を研究した.ある初期値に対してはゼロ割に起因するブレークダウンが発生する.離散可積分系の特異点閉じ込め法では微小量εだけ平行移動することでゼロ割を回避するが,このような方法では数値誤差は大きくなるため数値解析には不適である. そこで平成28年度は,まず,イプシロンアルゴリズムの最近接項間の漸化式の代わりに,少し先のステップの情報を取り入れることでゼロ割をの発生する項を消去したミドルレンジの漸化式を発見した.この結果,ゼロ割の特異点が局在する場合には,数値誤差が増大することなく,ゼロ割を避けて計算を進行させることができるようになった. 一方,直交多項式論に基づいて正値性によってブレークダウンを起こさないことを保証するアルゴリズムとして対称正定値な係数行列をもつ連立一次方程式に対する共役勾配法,共役残差法に注目し,平成28年度は,qdアルゴリズムを用いてランチョスパラメータをより少ない計算量と高い相対精度で逐次計算する高次の共役勾配法・共役残差法とも呼ぶべき反復解法を定式化することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変数変換で互いに移り合うイプシロンアルゴリズムの漸化式に対する数値誤差を増大させない特異点閉じ込めの成功により,qd法でも同様な特異点閉じ込めが可能であることが強く示唆されるに至った.イプシロンアルゴリズムは数列の収束加速に用いられるが,qd法ははるかに広い応用をもつ.
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今後の研究の推進方策 |
qd法はforward型とprogressive型の2種類の使い方があり,ゼロ割に起因する特異点のパタンも異なる.このうち,本研究では,ランチョス法に基づく非対称行列を係数行列とする連立一次方程式の反復解法である双直交共役勾配法や双直交共役残差法へのqd法の応用の際に必要となるprogressive型qd法の特異点閉じ込めを実現することで,これら反復解法のブレークダウンの回避をはかる.
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次年度使用額が生じた理由 |
計画調書では,研究目的に,『qd法に対して,初期値の情報を失うことなくブレークダウンを回避し,高い相対精度を保って固有値計算を続行する手法を開発し,その実装コードを公開する』と書いたが,理論研究の進展により,qd法の特異点閉じ込めにはまだ成功していないものの,その応用としてqd法と連立一次方程式の反復法の関係が明確になっている.この結果,固有値計算だけでなく,連立一次方程式の反復法や固有ベクトル計算の実装コードの開発までが視野に入ってきた.そこで,平成28年度は理論研究に集中して取り組み,実装コードのプログラミングに要する人件費・謝金を平成29年度に繰り越すこととした.
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次年度使用額の使用計画 |
まずは,係数行列が対称正定値の場合の連立一次方程式の反復法の数値実験を行う.対称正定値行列の固有値はすべて正の数であり,固有多項式が重根をもつ場合と単根の場合を比較することになる.理論上はブレークダウンは起きないが,丸め誤差に起因する精度の悪化への対処は必要である.さらに,係数行列が非対称の場合の数値実験をスタートさせる.負やゼロの固有値,複素固有値,重根・単根,疎行列・密行列,条件数の大小という様々な比較すべき性質があるため数値実験はタフなものになると予想される.平成29年度は最終年度として,本研究で開発する特異点閉じ込め法によってゼロ割の発生しても精度を悪化させることなくブレークダウンを回避する実装コードを開発を目指す.
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