研究実績の概要 |
C. ランチョス(1950,1952)による正定値対称行列の3重対角化法において,離散戸田方程式(qd法)の時刻0→1の時間発展とみなせる式が導出されている.これは共役勾配法(CG法)の発見(1952)に僅かに先行するとともに,連分数展開を用いたルティスハウザー(1954)のqd法の発見に先駆けるものであった.本研究では,このランチョスのアイデアを一般化することで,multistep progressive algorithm (MPA)と名付けるランチョスの前進型アルゴリズムの多段拡張を定式化した.さらに,MPAの連立1次方程式の反復法である共役残差法(CR法)とその一般化,固有ベクトル計算,ガウス型積分公式計算への応用について成功させた.以上の結果を英国のJ. Phys. A: Math. Theor.紙に論文発表した. ランチョス法はブレークダウンしやすいという欠点を持っている.これは数値誤差の蓄積によってランチョスベクトルの直交性が失われることに起因するが,ランチョスパラメータの計算では零割の発生として現れる.本研究によって,ランチョスベクトルの内積計算ではなく離散戸田方程式による比較的単純な四則演算でランチョスパラメータの計算を高精度に実行できるようになった.とりわけ,悪性として知られるヒルベルト行列を係数行列とする連立1次方程式についても,共役残差法(CR法)によってブレークダウンなく求解できることが示された. さらに,multistep progressive algorithm of infinite case (iMPA)と命名した固有ベクトルの算法によって,悪条件なフランク行列の全ての固有ベクトルが計算されることを確かめた.
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