研究実績の概要 |
本研究の目的は,一般の凸ゲームに付随したランダムネス概念を定式化することにより,確率空間をアプリオリに仮定しない経験確率の理論の構築にチャレンジすることにある.また,この定式化と並行して,各凸ゲームが定める経験確率に対する絶対連続性の概念や,経験確率空間の情報幾何構造,力学的システムに対する確率的記述の可能性の研究,さらにはより広い枠組み,例えば量子力学を包含する体系への拡張に対する研究等も行う. 本年度は,昨年度実施した量子力学を包含する体系への拡張をベースに,研究代表者らの先行研究(Journal of Physics A: Mathematical and Theoretical, vol. 50 (2017) 165301)において未解決となっていた問題,すなわちサンドイッチ型 α-Renyi 量子相対エントロピー自体の凸性およびトレース保存完全性写像の下での単調性の研究を行った.サンドイッチ型 α-Renyi 量子相対エントロピーは2013年に提唱された新しい概念であり,量子情報理論,特に量子仮説検定問題において本質的役割を果たすことが知られている重要な量である.本研究では特に, α<0 の領域でのサンドイッチ型 α-Renyi 量子相対エントロピーの同時凸性および単調性について,主として Frank and Lieb による α>0 の領域での研究を精査しながら研究を進めた.その結果,α<0 の領域でのみ成立する逆向き Young 不等式とでも呼ぶべき不等式を用いることにより,同時凸性および単調性が共に証明できること,すなわち上述の先行研究における数学的予想は正しかったことが明らかとなった.
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