研究課題/領域番号 |
15K13460
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松本 眞 広島大学, 理学研究科, 教授 (70231602)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 準モンテカルロ法 / 超一様点集合 / 疑似乱数 / WAFOM |
研究実績の概要 |
モンテカルロ積分とは、高次元空間を定義域に持つ被積分関数の積分を求めるのに、定義域上に一様に分布する有限個の乱数を用い、平均をもって積分の近似とする手法である。これに対し、準モンテカルロ法では、定義域に超一様に配置された点集合を用いることで、収束の速度を速める。本年度においては、超一様性の尺度としてすでに導入されているWAFOMに対し、さらにパラメーターを導入することで、従来扱えなかった比較的高次元(8次元以上)の点集合に対してWAFOMによる点集合の選別を行うことに成功した。次元や点集合のサイズごとにパラメータの値の選択をする必要があるが、次元のみに依存してパラメータを定める方法を開発した。また、WAFOM値の小さい点集合を探索するのに、原瀬が導入した線形スクランブルを用い、かつ、微小な変形により局所最小値を探す山登り法を用いて、ランダムな探索よりも効率よくWAFOM値の小さな点集合を得ることに成功した。得られた点集合は、Genzのテスト被積分関数のうち高階偏導関数が小さいものに対し、従来のSobol点列やNiedereitter-Xing点列よりも高速な収束を見せた。連携研究者原瀬は、広く使われている疑似乱数メルセンヌツイスターよりも高次元均等分布性が高く、周期から計算される理論上階に一致している疑似乱数発生法を開発した。連携研究者原本は、NISTに用いられる疑似乱数検定法の一部に対して、二重検定の二段目の検定における、一段目の検定の近似誤差の与える影響を調べ、二段目の検定の回数に関して上界を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Genzのテスト関数や多変量正規分布の一部について、従来の点集合にくらべて低WAFOM点集合のほうが積分誤差を小さくすることが実験的に確かめられた。一方で、WAFOMの限界として、被積分関数の高階導関数のノルムが大きいときには、低WAFOM点集合の優位性が観察できないことが観察された。多変数の指数関数や三角関数では低WAFOM点集合が優位であり、微分不可能な関数では従来の点集合からの優位性は見られない。これらは、WAFOMが満たすKoksma-Hlawka型不等式に高階導関数が現れることからの自然な帰結でもある。このように、WAFOMの有用性とその限界がわかってきた。 一方、パラメータ付きWAFOMについて、そのパラメータの選択基準について、一つの戦略が定まった。点集合の基底をランダムに与えるという仮定の下で、WAFOMの変動係数(分散の平方根を期待値で割った値)をパラメータから求める公式を得た。低WAFOM点集合が存在するためには、変動係数がある程度大きくならねばならない。この要請と、広い被積分関数に対して近似誤差を小さくする要請をあわせ考えることによって、パラメータの選択基準が得られる。変動係数が極小になるパラメータと極大になるパラメータの平均値を選択することにより、点の数によらず次元のみに依存したパラメータが選択でき、積分実験によれば16変数程度までWAFOMの効果が観察された。一方、16変数を超えるとなめらかな関数でもWAFOMの効果は観測されず、実験的に一つの限界を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
SobolやNiederreiter-Xing集合に対してlinear scramblingを施して低WAFOM点集合を構成している。この際、低WAFOM化したことによって数値積分誤差は減ることはあるものの、増えることは観察されていない。ある種の関数においては劇的に誤差が減り、ある種の関数では誤差は変わらないのであるから、実用上は低WAFOM点集合を用いて数値積分することにはデメリットはない。そのため、低WAFOM点集合による数値積分パッケージを開発して、ダウンロード可能な形で公開し、実際に使ってもらって従来の点集合に対して優位であったか否かを解答してもらうことにより、WAFOMが実用上有意義なような応用があるのか、あるとしたらどのようなタイプのものであるのかを調べる。その結果に応じて、パラメータの取り方など、WAFOMや超一様点集合のデザインを変えていく必要がある。現在ではGenzの6種の被積分関数と多変量正規分布関数を用いているが、実際に使われている関数の中には分布関数が不連続であるものなどWAFOMの有意義性が乏しいものもあるであろうし、また、もともと低WAFOMが有意義な例もあると思われる。 研究の実用段階に入ることで、使用例から、超一様点集合のデザインへのフィードバックを行う。適切な問題にこれらの点集合を使用して実験してもらうグループを見つけることが一つの課題となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた、低WAFOM点集合を用いた点集合をもちいた数値積分法のパッケージ開発が遅れたため。
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次年度使用額の使用計画 |
数値積分法パッケージの開発のための計算機リソースの購入、ならびに実験グループとの議論のための旅費
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