• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2016 年度 実施状況報告書

腫瘍細胞の増殖に現れる接触抑制モデルの数理解析

研究課題

研究課題/領域番号 15K13462
研究機関明治大学

研究代表者

三村 昌泰  明治大学, 研究・知財戦略機構, 特任教授 (50068128)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワード非線形拡散方程式 / 接触抑制 / 進行波解 / 自由境界問題
研究実績の概要

正常細胞には、増殖・拡大し,回りの境界や他の細胞集団と接触するとき,増殖及び移動が抑制されるという「接触抑制」現象が現れることは良く知られている.もしもこのような機能が失われるならば、増殖は限りなく拡がり、初期段階の癌細胞になる可能性がある.このことから,本研究では,数理科学の視点から接触抑制の機構を明らかにするために,数理モデルを提案し,そのことから,この問題の理論解明を研究課題にした.初年度では,巨視的視点から,接触抑制機構をもつ正常細胞と悪性細胞の相互作用を記述する非線形拡散方程式モデルを導出し,いくつかの数値シミュレーションを行なった.今年度は正常細胞の増殖速度を考察するために,モデルがもつ進行波解という特殊解に注目し,空間1次元解の定性的性質を進行波の速度の視点から解析を行なった.具体的には,2つの細胞の増殖率,相互作用に依存して,(接触抑制効果によって)交じり合わない状況での進行波の他に,交じり合った進行波が存在することを発見した.このような進行波は次のような状況で起こることが予想される.もしもあるとき,正常細胞が何らかの原因(例えば、突然変異)で異常細胞に変化したとするとき,2つの細胞がまじり合う、あるいは適当な状態で交じり合わなという2つの場合が考えられる.異常細胞は状態から増殖・拡大をしていくが,拡大速度はそれぞれ交じり合わない,交じり合うという異なる進行波の速度で記述されることがシミュレーションから確認された.前者の進行波速度よりも後者の進行波速度が速いといことはすでに示されていたが,この結果を踏まえて、正常細胞から変化した異常細胞の拡大速度はその空間分布に依存して拡大速度が異なることが数理解析から明らかにしたのである.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

初年度は,正常細胞の持つ接触抑制効果を理論的に理解するために正常細胞と異常細胞の接触抑制効果を記述する非線形拡散方程式モデルを提案した.そして正常細胞から突然変異等が原因で異常細胞が現れたとき,正常細胞がもつ接触抑制効果のもとで,どのような振る舞いをするのかを考察した.先ず,接触抑制の元で互いに交じり合わない空間1次元状況を考えて,2つの細胞集団の境界を記述する自由境界問題を導出した.そしてその解析から,交じり合わない進行波解を議論した.更に,数値シミュレーションから空間1次元、2次元の場合に異常細胞がどのような拡がっていくかを考察した.今年度は,その成果に基づいて,正常細胞と異常細胞がが交じり合った状態での異常細胞の拡大速度を考察することである.そのために,交じり合った進行波解の性質を調べることに成功した.そこでの成果は,以上細胞の拡大速度は正常細胞と異常細胞の空間分布に依存して,大きく変化することが明らかになった。この点は満足いく結果であったが,区分が「おおむね順調に進展している」とベストではないことにしたのは,異常細胞の増殖・拡大に対する空間2次元問題がシミュレーション以外になされなかったことである.

今後の研究の推進方策

2017年度は最終年度である.やる課題は我々の提案した非線形拡散モデルに対して次の2つの課題を考察することである:(1)これまでの2年間では,異常細胞の拡大速度を知るために,交じり合わない,交じり合うという2つのタイプの1次元進行波解を議論して来たが,果たして進行波解はこれだけであろうかという疑問が自然に起こる.これに対して今年度、数値シミュレーションから,状況によっては交じり合わない,交じり合うという2種類の進行波解だけでなく,両方の性質を持った部分的に交じり合った(partially overlapping)新しいタイプの進行波解が発見されたのである.その解析を行なう.(2)2次元問題は依然として多くの課題がある.これまで得られた結果は,正常細胞と異常細胞が初期状態で交じり合っていなければ,以後交じり合わないということだけであり、そのとき,異常細胞の挙動,初期に交じり合っていたときの結果は何も得られていない.その原因は,我々のモデルは非線形拡散方程式であるが,正確には,非線形放物型―双曲型方程式であり,この混合型方程式であることが解析を難しくしている.そこで、その第1歩として2次元自由境界問題の導出を行ないたい.

次年度使用額が生じた理由

この研究課題推進のために,共同研究者の1人であるMichiel Bertsch教授(ローマ第2大学)と直接議論することが有効である.そのために,2016年6月,2017年3月の2度に渡り,Bertsch教授は明治大学先端数理科学インスティテュートに2週間ほど滞在して頂いた,そこでの議論は大変有効であり,近いうちに成果は発表される予定である.しかしながら,それに向けて旅費等を準備していたが、同氏がご自分の研究費でそれをまかなうことになったことから、次年度で使用することにした.

次年度使用額の使用計画

この研究課題に対して代表者は長年、Bertsch教授の他に Danielle Hilhorst教授(パリ南大学),若狭徹准教授(九州工業大学),出原浩史准教授(宮崎大学)との共同研究を推進している.2017年度は今回の件研究テーマの最終年度であることから,上記のメンバーと一緒に研究課題に関連した研究集会を開催する計画である.そのために使用したい.

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2017 2016 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] CNRS/National Center for Theoretical Sciences/KAIST(フランス,台湾,韓国)

    • 国名
      フランス,台湾,韓国
    • 外国機関名
      CNRS/National Center for Theoretical Sciences/KAIST
  • [雑誌論文] A reaction diffusion model for understanding phyllotactic formation2017

    • 著者名/発表者名
      Y. Tanaka, M. Mimura and H. Ninomiya
    • 雑誌名

      Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics

      巻: 33 ページ: 183-205

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Shadow system Approach to a plankton model generating harmful algal bloom2016

    • 著者名/発表者名
      H. Ikeda, M. Mimura and T. Scotti
    • 雑誌名

      DCDS series A

      巻: 37 ページ: 829-858

    • 査読あり / 国際共著 / 謝辞記載あり
  • [学会発表] Notion of diffusion-induced instability2016

    • 著者名/発表者名
      三村昌泰
    • 学会等名
      2016 年度数理生物学会年会
    • 発表場所
      九州大学
    • 年月日
      2016-09-09
    • 招待講演
  • [学会発表] A simplified tumor growth model of contact inhibition2016

    • 著者名/発表者名
      Masayasu Mimura
    • 学会等名
      7th Pacific Rim Conference on Mathematics
    • 発表場所
      National Seoul University
    • 年月日
      2016-06-28
    • 国際学会 / 招待講演
  • [備考] 三村昌泰ホームページ

    • URL

      http://home.mims.meiji.ac.jp/~mimura/

URL: 

公開日: 2018-01-16  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi