研究課題
正常細胞には、増殖・拡大し,外部との境界や他の細胞集団と接触するとき,増殖及び移動が抑制されるという「接触抑制」機構がある.もしもこのような機構が失われるならば、増殖は限りなく拡がり、初期段階の癌細胞になる可能性がある.このことから,本研究では,接触抑制の機構を明らかにするために,正常細胞と異常細胞の総合作用を記述する非線形拡散方程式モデルを導出し,解析及びそれを相補するシミュレーションから,その数理的考察を行なった.2つの細胞の増殖速度を数理的に扱うために,進行波解という特殊解に注目し,その解が持つ速度を解析するから細胞の増殖と接触抑制の関係に対して考察を行なった.具体的には,2つの細胞の増殖率,相互作用に依存して,(接触抑制効果によって)交じり合わない状況での進行波(分離進行波)解の他に,交じり合った進行波(交差進行波)解が存在することがわかり、さらに、その混合形で表される進行波(部分交差進行波)解が存在することを発見した.すなわち、多様な進行波が存在することから、異常細胞の拡大速度が必ずしも一意でないことがわかった.もしも正常細胞の一部分が何らかの原因(例えば、突然変異)で完全に異常細胞に変ったとする.このとき、異常細胞はその後決して正常細胞と混じり合わずに増殖・拡大をしていき、異常細胞の拡大速度は分離進行波の速度で与えられる.一方、正常細胞と異常細胞が交差するような初期状況では、モデルに含まれるパラメータに依存して,交差進行波あるいは部分交差進行波に近づくことがシミュレーションから確認された.これらの結果より、異常細胞の拡大速度は進行波速度と密接な関係があること、そして進行波速度は2つの細胞の増殖率及び相互作用に鋭敏に依存して多重に存在していることが数理解析から明らかになった.
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