研究課題/領域番号 |
15K13469
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
江澤 元 国立天文台, チリ観測所, 助教 (60321585)
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研究分担者 |
松尾 宏 国立天文台, 先端技術センター, 准教授 (90192749)
浮辺 雅宏 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, グループ長 (00344226)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電波天文学 / テラヘルツ波天文観測 / 光子計数技術 |
研究実績の概要 |
本研究では、テラヘルツ帯における光子数の揺らぎを統計的に評価することで光源の物理状態を解明できる可能性に着目し、テラヘルツ帯の天文観測手法に光子統計という新しい概念を導入する。そこで、高速の動作が期待される超伝導トンネル接合を用いた検出器を応用した新たな検出器システムを構成し、この観測手法を実験室で検証することを目標とする。 このため、テラヘルツ帯に最適化した低リークの超伝導トンネル接合素子の開発を進めた。アルミ層を薄くするなど素子作成条件をテラヘルツ帯の低リークのデバイス用に最適化した素子を開発し、接合面積100平方μmで7pAという低いリーク電流密度をもつ素子の開発に成功した。この実績に基づき、接合面積をさらに小さくし、目標とする1 pAの低リークのトンネル接合素子の実現を目指している。また、光子計数実験に用いる実験装置を組み上げている。液体ヘリウムを用いた4 Kクライオスタット内にHe吸着型冷凍器を実装し、0.3 Kの極低温環境で超伝導トンネル接合素子を読み出すシステムを整備している。これで実験を開始したところ、クライオスタット内の材料の磁気特性の扱いに当初の想定以上に慎重さが要求されることが判明した。そこで、特に極低温ステージ周辺の物理的構成を全面的に見直す改良を行った。 実験室での研究と並行して、光子計数型検出技術とその天文観測への応用について、技術的要求を中心に検討した。その成果の一部は国際会議16th International Workshop on Low temperature Detectorsにおいて発表し、査読論文にまとめた。また光子計数技術により可能になる新たな観測手法について、理論家を含む関連の研究者との議論もはじめている。そのひとつの成果として、既存の電波望遠鏡を用いた実証実験の可能性について方向性が見えてきた。その実現にむけて、望遠鏡を運用する観測所との調整も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
低リークの超伝導トンネル接合の開発においては、アルミ層を薄くするなど素子作成条件をテラヘルツ帯の低リークのデバイス用に最適化した素子を開発し、接合面積100平方μmで極低温において7 pAの低いリーク電流を実現するなど、順調に進捗している。また、光子計数型検出器とその天文観測の実現に向けた技術検討も順調に進み、国際会議での成果発表も行うととともに、既存の望遠鏡を用いた検証実験の構想検討も行っている。 これと並行して、開発した低リークの超伝導素子を0.3 Kの極低温に冷却し、光子計数実験を進めるためのセットアップを構築している。組み上がった装置を用いて実験を開始したところ、期待通りの低リーク電流が測定されなかった。これを追求したところ、極低温下で超伝導素子が磁束トラップを起こしていたことが原因の一つと判明した。すなわち、クライオスタット内で用いる素材の磁気特性の扱いに当初の想定以上に慎重さが要求されることとなり、特に極低温ステージ周りの構成を全面的に見直す改良が必要となった。このため、光子計数実験の進捗が当初予定よりも若干次年度にずれ込むこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、テラヘルツ帯における光子数の揺らぎを統計的に評価することで、光源の物理状態を解明できる可能性に着目し、光子統計という新たな概念を用いた天文観測手法の開拓を目指している。平成28年度は、前年度に引き続き、光子計数実験を推進するとともに、テラヘルツ光子計数型検出器の天文応用についても考察を進める。若干遅れている実験装置の組み上げを急ぐとともに、極低温での実験環境を整える。テラヘルツ光に対する光子計数型検出器の応答を実験的に確認するため、光学フィルターの設計製作を含め、光学系を整備する。これと並行してデータ収集系の整備も進めることになるが、実験の進捗によっては光学実験に注力し、波長など光源のさまざまな物理状態に対する検出器の応答を調べることに重点をおく可能性もある。 天文観測への応用については、初年度に検討した既存の電波望遠鏡を用いた実証実験の可能性を追求し、望遠鏡を運用する観測所の協力も取りつけて推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
低リークの超伝導トンネル接合素子の製作は順調に進んだ。一方、光子計数実験については、実験用クライオスタットの内部で用いる素材の磁気特性の扱いに当初の想定以上に慎重さが要求されることが判明したため、特に極低温ステージ周りの構成を全面的に見直す改良を行う必要が生じた。この改良にともなう部材は、国立天文台先端技術センターのMEショップで内製したため、これに大きな追加費用は発生していない。一方、光学フィルター等の光学部品、および一部の電子部品など、当初計画では平成27年度に調達予定であった物品については、光子計数実験の進捗によりその仕様を最適化する必要があるため、これを平成28年度に実施することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額分は、光学フィルター等の光学部品および電子部品等の購入に充てることを予定している。これらは基本的に平成27年度に購入する予定であったものであり、実験の進捗により使用時期が変更になったものの、研究計画全体としての使途計画に大きな変更があるわけではない。
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