研究課題/領域番号 |
15K13470
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
海老塚 昇 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 研究員 (80333300)
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研究分担者 |
山形 豊 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, チームリーダー (70261203)
佐々木 実 豊田工業大学, 工学部, 教授 (70282100)
青木 和光 国立天文台, TMT推進室, 准教授 (20321581)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 透過型回折格子 / 高次回折光 / 高分散分光 / 厚い回折格子 |
研究実績の概要 |
エンボス(スペーサ)を形成した石英ミラー基板の積層によるQuasi-Bragg (QB) 回折格子(鎧戸やブラインドのようにミラー面が整列した回折格子)の試作を3回行い、回数を重ねる度に周期誤差が軽減したが、エンボスに加わる荷重によってミラー面が陥没して格子周期が乱れることがわかった。エンボスに加わる荷重を軽減するためにエンボスの密度を10倍程度に増やしたミラー基板を積層してQB 回折格子の試作を行う。また、積層したミラー基板の表面に対して傾けて切断、研磨し、直角プリズムおよび表面ミラーと組み合わせてQuasi-Braggイマージョン(QBI)回折格子の試作を行う。 ミラー基板を積層する方法では格子周期が100μm以下のQB 回折格子(次世代30m望遠鏡:TMTの観測装置WFOS用の回折格子は格子周期が2~5μm)を製作することが困難である。一方、紫外線露光によるフォトレジストの高アスペクト比のVolume binary (VB) 回折格子(厚い矩形回折格子)を製作することも困難である。そこで、MEMS技術を応用した新しい透過型回折格子の製作方法を考案した。まず、Bosch processによってシリコンのモールド型を製作し、その型から透明な樹脂のレプリカ加工を行うことによって、全反射ミラー面が整列した格子周期が100μm以下のQB 回折格子として機能するVB 回折格子を製作する。 さらに新しい格子構造のReflector facet transmission (RFT) 回折格子を考案した。WFOS用の透過型回折格子を想定した場合に、厳密結合波解析(RCWA)を用いた数値計算によって、RFT 回折格子がQB 回折格子やVB 回折格子より回折効率ことがわかった。さらにRFT 回折格子はQB 回折格子やVB 回折格子より製作が容易であると見込まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
クロムがスパッタリングされたミラー面の裏面に平行平面基板自体をエッチングしてエンボスを形成した0.5mmの石英ミラー基板47枚を紫外線硬化型接着剤により積層してQB 回折格子の試作を3回行った。回数を重ねるごとに性能は向上したが、ミラー面が陥没して格子周期が乱れることがわかった。直径約10μmのエンボスは8.5個/mm^2であり、積層工程においてエンボス1個あたりの荷重が最大数100MPaになる可能性があると見積もられる。この値は石英の圧縮強度(1,100MPa)に近い。その対策として、ミラー基板のエンボスを増やすことにより、ミラー面の陥没が起きなくなり、格子周期誤差が軽減されると見込まれる。 高アスペクト比の矩形格子を実現するために、MEMS技術を応用してフォトレジスト等の矩形回折格子の製作法を開発した結果、L&S=4:1 [μm]、深さ10μmのVB gratingの製作条件を見出すことができた。しかし、上記のWFOS用のVB gratingは製作が困難であることが分かった。 格子周期が100μm以下の製作が可能な透過型回折格子として、新たにノコギリ歯形状の格子の一方の面から入射した光束が、格子のもう一方の面で反射して格子の裏面の平面から光束が出射するRFT 回折格子を考案した(特許出願)。RCWAによりVB 回折格子およびQB 回折格子、RFT 回折格子について回折効率の数値計算を行なった。その結果、WFOS用の透過型回折格子を想定した場合にRFT 回折格子の回折効率が最も高いことが分かった。RFT 回折格子のレプリカ用の金型の試験加工として、ニッケル・リン合金の基板に単結晶ダイアモンドバイトと超精密加工装置を用いてV溝加工を行なった。その結果、この加工は加工機の温度環境に極めて敏感であることがわかり、現在は恒温ブースの温度を安定させるための改造を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
エンボスにかかる荷重を軽減するためにエンボスの密度を10倍程度に増やしたミラー基板を積層してQB 回折格子の試作を行う。また、積層したミラー基板の表面に対して傾けて切断、研磨し、直角プリズムおよび表面ミラーと組み合わせてQBI回折格子の試作を行う。 格子周期が100μm以下のQB 回折格子の製作方法として、まずシリコン基板に深い溝や細い柱等を製作可能なBoschプロセスにより薄い壁状の格子を製作して、その格子をモールド型として屈折率が比較的高い樹脂のレプリカ加工によって、全反射ミラー面が整列した格子周期が100μm以下のQB 回折格子として機能するVB 回折格子を製作する。必要に応じて、さらに、このVB 回折格子の界面において入射光が臨界角になるような屈折率が低い樹脂を充填する。また、試作に先立ち、このVB 回折格子の回折効率の数値計算を行い、最適なLine & Space(畝と溝の幅の比)や溝の深さを求める。 RFT回折格子の試験加工として、格子の頂角が60°程度(WFOS用は36~44°)、格子間隔が約10μmの表面刻線型回折格子の試作を行う。刃先を格子形状と同じ角度の単結晶ダイアモンドバイトを超精密加工装置に取り付けて無電解メッキのニッケル・リン合金のワークピースをシェーパー加工によって金型が製作される。金型に離型材を塗布して紫外線硬化型等の樹脂を滴下した後に透明な平行平面基板を置き、基板側から紫外線露光を行ない、金型を剥離すること(レプリカ加工)によって透過型回折格子を試作する。この透過型回折格子の性能を評価することによって、WFOS用のRFT回折格子を試作する場合の技術課題を顕在化させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度の実施計画に沿って執行し、誤差が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度の実施計画の中で適切に執行する。
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