研究課題
今年度は、シンチレーションフィルムの片側のみに感度を持たせた観測が可能であるかの検証を行った。シミュレーションによって、観測対象であるラドンの崩壊に伴うα線観測に必要なシンチレーションフィルムの厚さが75マイクロメートル以上必要なこと、この厚さではβ線やγ線起因の信号の影響が非常に小さいこと、またノイズとなる外側からのα線を止めるための透明なフィルムの厚さが100マイクロメートルで十分であることが分かった。現在所有しているシンチレーションフィルムで一番厚さの近い125マイクロメートルのものと、透明フィルムとして厚さ100マイクロメートルのOHPシートを用いて、Am放射線源からのα線の信号を用いて確認したところ、シンチレーションフィルム側に線源をおいたときのみに発光が観測されることが確認できた。これによって片面のみに感度を持たせることに成功した。次にトリウムを含有する溶接棒を用いて、トリウム系列の崩壊にともなって溶接棒表面にあらわれるα線の観測を行い、溶接棒をシンチレーションフィルム側に置いた場合の信号数が透明フィルム側に置いた場合の信号数と比較して非常に多いことが確認できた。さらに取得された信号の波形形状を解析することでα線とそれ以外の信号を識別できる可能性があることも確認できた。これによって粒子識別をノイズ事象除去に用いることで、将来表面由来のα線観測感度を向上できる可能性を示せた。同じフィルムを利用して観測していると放射線源を設置していなくてもα線とおぼしき信号が観測されることがあり、環境中の埃に含まれる放射性不純物を静電気などで吸着している可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
片面に感度をもたせたシンチレーションフィルムによって片側だけから飛来したα線観測できるかという原理検証は、Am放射線源からのα線を用いた実験により確認でき、片面のみで観測可能であることがわかった。本研究で観測を目指す環境放射線源であるトリウムを含有する溶接棒からの信号観測でも、トリウムの崩壊やその娘核の崩壊によるα線からの信号が観測された。ラミネートによって片側に高い感度が得られることが確認され、また取得された信号波形形状によるα線由来の信号とそれ以外の信号の分離可能性が得られた。ここまでの本研究の進捗状況はおおむね予定どおりに進んでいる。
片面に感度をもたせたシンチレーションフィルムによって片側だけから飛来したα線観測できるかという原理検証の次は、自然放射線起源のα線観測を行う。本研究の観測対象の1つである、環境中に広く存在している222Rnの娘核である 214Bi - 214Poの遅延同時計測を行うことで214Po の崩壊によって生じるα線を観測する。Am線源とは違うエネルギーのα線を観測することで、シンチレーションフィルム発光のエネルギー依存性の確認、それを基にした観測エネルギーの較正、分解能の確認を行い、実用化に向けた観測装置の理解を進める。シンチレーションフィルムとラミネートフィルムの接合方法の開発を行い、空気の混入による全反射の影響を少なくし、また埃などを巻き込んでそれ自身がα線ノイズ事象を発生させないようにするための接着方法の確立を目指す。フィルム自身が静電気などで埃が付着し汚染されると観測したい表面汚染の精度を下げるだけでなくこれ自身が汚染源となってしまうので、フィルムの除染方法についての実験を行う。薬品によるふき取りや界面活性剤、洗剤、純水による洗剤などによってフィルム表面からの信号がどのように変化するかを観測することで、これらの効果を検証する。
高電圧電源を本研究用に購入する予定であったが、カムランド禅の次期計画研究用に購入した別の高電圧電源の予備装置の利用が可能となったため購入を中止した。
本研究のデータ取得装置は2チャンネル125MHzのFADCを用いているが、大きなシンチレーションフィルムの信号を取得するためには多チャンネル化が必要となる。また取得波形による粒子識別が観測の高感度化にむけて必要であるが、現在使用しているFADCでは波形のサンプリング数がすくないため粒子識別能力に制限がかかっている。これらの問題を解決するために、高分解能多チャンネルのデータ取得装置を導入する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
The Astrophysical Journal
巻: 818 ページ: 91
10.3847/0004-637X/818/1/91
Nuclear Physics A
巻: 946 ページ: 171-181
10.1016/j.nuclphysa.2015.11.011
巻: 806 ページ: 87
10.1088/0004-637X/806/1/87
Physical Review C
巻: 92 ページ: 055808
10.1103/PhysRevC.92.055808
Physical Review D
巻: 92 ページ: 0520006
10.1103/PhysRevD.92.052006