研究課題/領域番号 |
15K13476
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
久下 謙一 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 教授 (10125924)
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研究分担者 |
中 竜大 名古屋大学, 学内共同利用施設等, 助教 (00608888)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 素粒子測定技術 / 原子核乾板 / 放射線飛跡検出 / プラズモン共鳴 / 偏光 / 超解像技術 |
研究実績の概要 |
ダークマター検出の国際プロジェクト(NEWS; Nuclear Emulsion for WIMPs Search)が本格的に動き出した.その検出手段としての原子核乾板の特性向上と飛跡検出技術の多方面・総合的な開発が求められている.本研究でもそのための萌芽的検出技術の開発に向けた検証を進めた. 現像銀微粒子は金属微粒子特有のプラズモン共鳴発光を示す.この発光は粒子形状に異方性があると,偏光した励起光に対して異方性の方向に応じた偏光応答を示す.通常の現像を行うとフィラメント状の現像銀が丸まった異方性のない糸玉状になる.飛跡の場合には現像銀粒子が連なるため,その方向に応じた偏光応答を示す.すでに飛跡の方向性による偏光応答を見いだしており,その検出精度の向上を目指した.光学系の高精度化と画像処理システムの改良により,読み取りの解像度の向上を図った.また形状解析の画像処理技術の改良で,カブリ粒子との区別が可能になるかを検証した. 現像銀粒子のプラズモン共鳴による検出のためのモデル試料として,潜像核の分散を強めて,1個のハロゲン化銀粒子上に複数個の潜像核を持つ感光材料を調製した.サブミクロンサイズの臭化銀粒子からなる乳剤を硫黄増感して,分散を強めた.高エネルギーの炭素イオンを照射し,金沈着現像により潜像核上に金微粒子を形成した.1個のハロゲン化銀粒子上の金微粒子個数を電子顕微鏡を用いて数えた.統計的解析により1個の炭素イオンのヒットによりハロゲン化銀粒子上に形成される現像金微粒子数を求めた.この数値は潜像核の分散を表す指標となる.硫黄増感による潜像核の分散の程度を評価することで,モデル試料としての有用性を検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現像銀粒子のプラズモン共鳴発光の偏光応答による微細飛跡の方向の検出について,光学系の高精度化や,光学顕微鏡像の画像処理システムの改良により,読み取りの解像度が向上し,検出精度が高まった.100 nmの長さの微小な飛跡でも,その方向を決めることができた.形状解析の画像処理技術の改良により,類似サイズのカブリとの弁別精度も向上した.一方,この方法により,バックグラウンドの主成分であるβ,γ線により形成される現像銀粒子と飛跡とが区別しうるかどうかについての検証にはまだ至らなかった.これは今後の大きな課題である. フィラメント状銀を多数形成するため,潜像核の分散を強めた乳剤を硫黄増感処理により調製した.ここへ高エネルギー炭素イオンを打ち込んで形成される潜像核を金沈着現像で検出し個数を数えたところ,硫黄増感レベルの上昇に伴い1個のハロゲン化銀粒子上に形成される潜像核数は増大しており,潜像核の分散が強まっていることが確かめられた.このとき分散が強まるとともに,硫黄増感によるカブリも増大するので,その除去法を検討し,カブリ防止剤を種々試みた.テトラゾリウム化合物とベンゾトリアゾールの有効性が見いだされたが,このうちテトラゾリウム化合物は潜像核を分散させる効果もあり,硫黄増感とテトラゾリウム化合物の加成作用の検証が必要である.試料調製ノウハウについて多くの知見が得られた. これらの試料は,飛跡を作る高エネルギー粒子のエネルギーロスを,プラズモン共鳴発光をもちいて光学的に広いダイナミックレンジで検出するためのモデル感光材料となりうる.ただ,この試料の偏光応答の測定にまでは至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
硫黄増感による潜像核の分散を強めることができたので,硫黄増感乳剤からなる感光材料に抑制現像法を用いて,短いフィラメント状の現像銀を潜像核上に形成させる.これを偏光顕微鏡で観察すると,フィラメントの成長方向によりプラズモン共鳴発光に強弱が出ることが考えられる.強弱の回数は潜像核の個数を反映することになる.飛跡上の現像銀のフィラメントの集団について,順にこの方法で発光を数えることで,飛跡の潜像核個数線密度を求めることができると考えられる.この方法の検証のため,エネルギーロスの異なる放射線を照射して飛跡を記録し,この飛跡の潜像核個数線密度を求め,同時に電子顕微鏡で数えて比較し,値をつきあわせることで,エネルギーロスと潜像核個数線密度の相関を求め,エネルギーロス測定法として確立する. 以前の研究でテトラゾリウム化合物は潜像核の分散を強めることが見いだされており,かつ最近の研究でカブリレベルも大きく下げることが見いだされている.この化合物を添加することで,カブリ除去と潜像核分散の強調の両方が得られるかの検証をさらに進める. 超微粒子乳剤に形成される微細飛跡とカブリとを,プラズモン共鳴発光の偏光依存性により区別できた.このため乳剤中にごく微量含まれる放射性同位元素からのβ,γ線が,今後のノイズの主要因となると考えられる.これらの現像銀粒子は方向性が無いので,プラズモン共鳴発光で区別できるはずであり,光学系の改良と画像処理技術の改良により,精密な弁別技術の確立に努める.
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議での発表を予定していたが、東京での国際会議で招待での発表があったため、そのほかの成果の発表もそこで行い、外国出張旅費の一部が不要になった。
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次年度使用額の使用計画 |
NEWS計画の進捗により、共同研究等の打合せが予定されている。また国際会議での発表も予定しており、2015年度より多い外国出張旅費が見込まれる。
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