研究課題/領域番号 |
15K13480
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸本 康宏 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (30374911)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シンチレータ / 屈折率 |
研究実績の概要 |
今年度は,結晶シンチレータに高屈折率の膜を成膜して,それによってシンチレータ表面での全反射を抑制する研究を,企業(マツモトファインケミカル)の協力を得て,実施した. 先ず,手始めに,NaI(Tl)結晶を念頭に,石英ガラス製スライドグラスに屈折率1.9の成膜を試みた.この結果,成膜に用いる材料組成と,焼成温度などの条件を整える事で屈折率1.9にとどまらず,2.3程度までの高屈折率の膜(膜圧は50~80nm)を成膜することに成功した.しかも,過去の経験によれば,この方法によって,異なった屈折率の膜を多層(2~3層)積層する事が可能と思われる.このことは,本研究の目的,即ち,屈折率のコントロールによって,多数の結晶を用いた場合においても,表面反射による迷光を抑制した大型のシンチレータ系を作成する目的に大きく前進した.実際,屈折率の異なる3層の膜を80nmで成膜したNaI(Tl)を液体シンチレータに入れた系を想定し,数値計算を行うと,結晶表面での反射が1桁抑制されることが分かった. この成果を元に,早速NaI(Tl)結晶表面に,屈折率n=1.9の条件で成膜を試みた.結果,表面に細かい白斑が見られた.この白斑の原因として,NaI(Tl)の潮解により,Tlが析出した可能性が考えられた. そこで,潮解性が余り問題とならないCsI(Tl)結晶への成膜を行った.この結果,表面の白斑が見られないものの,成膜にバラツキがあることがはっきりした. これは,石英製スライドグラスに最適化した液を用いたためと,表面の濡れが異なるCsI(Tl)では液が最適で無いためと考えられ,現在は,液の最適化を試しているところである. また,n=2を越える屈折率も実現可能であるため,CdWO4結晶へn=2.3の薄膜の成膜を試みた.この結果,CdWO4結晶が黄色に変色した.これは焼成温度が高すぎるためと推測された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に示した通り,当初困難と思われた,n=1.9~2.3の屈折率を持った薄膜が出来る事が分かったことは,本研究における非常に大きな進展であった. 特に,多層膜化が可能と思われる成膜法で,屈折率の制御が可能となっている点は,これ自身が非常に大きな進捗と言える. また,多層化の可能性が高まったことから,多層化した場合の反射率の具体的な計算が実行出来るようになった点も今後の方針を考える上で非常に大きな進展であった. NaI(Tl)シンチレータ表面への塗布では,原因不明の白斑への対処が必要であるが,現段階では,ドライボックスの設置など潮解性への対応が万全では無いため,それら対策を施した後の実験に大きな期待が持てる. 一方で,研究計画調書では,高屈折率の液を開発する予定であったが,これに関しては,液の取扱いの困難さから,文献調査の状態が続いている. しかし,多層膜の研究を通じて,表面での反射を数値的に計算するツールが整ったため,調査の結果,可能性がある物質でどのような効果が得られるかを見積もることが出来るようになった.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,CsI(Tl)を用いて,液を最適化し,その液を用いて,再度CsI(Tl)表面上へ均一な成膜を試みる. また,多層化へのトライを実施する. これと平行して,NaI(Tl) の潮解性の影響を排除するために,ドライボックスなどの整備を進め,NaI(Tl)でもCsI(Tl)と同様に,均一な多層膜の成膜を実現したいと考えている. CdWO4結晶では,屈折率がn=2.3まで高い必要はないことが分かったため,より温度の低い成膜条件でn=1.9の膜を成膜し,シンチレータに変成がないかどうかを調べる予定である. これら高屈折率の薄膜の開発に加え,より大型化が簡単な,高屈折率の液の開発も進める予定である. 最終的には,これら開発したシンチレータ系を用いて,シンチレータとして性能テストを実施する.そこでは,発光量,エネルギー分解能を特に評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は2年間の研究であり,次年度はその2年目にあたる.従ってもともと次年度使用額が生じるものである. 前年度の研究の内容は,結晶表面への薄膜の成膜とその評価が中心であったが,マツモトファインケミカルの実験室にてそのインフラ,試薬等の資源を有効活用して進めることが出来たこと,そして何よりも,高屈折率の膜の成膜が想定よりも容易に実現したため,当初予算よりも少ない予算で,研究を進めることが出来た.また,多層膜の屈折率の計算に,専用ソフトウェアが必要と考えられたが,成膜の条件が良いため,簡便な数値計算により,自前で数値計算を行うことが出来た点も,費用の節約となった. 最後に,薄膜の他にも,高屈折率媒体の開発・研究を行う予定であったが,これは試料の取扱いの困難さと上記薄膜実験の著しい進捗から,情報収集にのみ,時間を割いたことも,同様に次年度使用額が生じる理由となっている.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,前年度に引き続き,NaI(Tl), CsI(Tl), CdWO4結晶表面へ,高屈折率の薄膜を成膜する研究を継続する.殊に,CsI(Tl)は潮解性の影響が少ないため,この結晶で,(1)成膜条件の最適化,(2)多層膜化を進める.これと平行して,潮解性の影響を最小限に抑制する実験環境の整備を進めた上で,より取扱いの困難なNaI(Tl)結晶へ,(1)(2)の成果をフィードバックする方針である. CdWO4は,温度による変質が見られたため,より低温での焼成を実施し,高屈折率に必要な焼成温度と結晶の変性温度の見極めを行う. また,次年度は,これまで資料ベースでの研究であった,高屈折率液体の研究も実施したい.これまでに候補は幾つか絞り込まれているので,その試料の入手,屈折率,光透過率の測定を実施し,その試料にNaI(Tl)を導入した際の表面屈折率の効果を調べる.
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