研究課題/領域番号 |
15K13483
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋本 幸士 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80345074)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 超弦理論 / カオス / AdS/CFT対応 |
研究実績の概要 |
本研究は、超弦理論で発展したAdS/CFT対応原理を用いることで、強結合の場の理論を古典重力にマップし、そこで、カオスを測定する。どのような古典重力系でカオスが発生しうるか、また、発生したカオスの状況や特徴付けなどを研究するため、超弦理論/力学系/可積分系の3分野の協合で進める。その目標に沿って、研究代表者と連携研究者は研究を行ってきた。
特に研究代表者は、まずは平坦な時空内でのブレーンの運動を古典的に取り扱う研究を精査した。そこでは、ブレーンに内部自由度(ゲージ場や位相自由度)がある場合には、そちら方向の運動も考慮に入れることができ、特に、内部自由度のスピードに上限があることを発見した。これは、内部空間も通常の時空と同じように相対論に似た速度上限があるということである。この研究成果をもとに、古典重力背景内でのブレーンの運動は、重力時空のみならず内部空間の運動も同様に考え得ることが示され、特に、これらの内部空間の運動のカオスを考慮する必要があることがわかった。
また、カオスを起こしうるDブレーンのシステムについて、次元や運動、電荷の観点から、総合的に検討を行った。特に、次元が高い場合には偏微分方程式との無矛盾性を考慮せねばならないこと、そして、どのようなDブレーンをどういう時空におけばカオスが出るのかを、知られた弦の運動の研究と総合しながら、研究を行った。その結果、Dブレーンと背景時空について、幾つかの有力な候補を絞ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画の第一段階として、カオス模型を構築することを申請時に挙げている。閉じ込め時空におけるプローブD ブレーンの運動強結合のゲージ理論で、ゲージ対称性の大きくなる極限(ラージN 極限)をとると、一般にAdS/CFT 対応によって重力双対があることが期待できる。双対重力は、場の量子論側が閉じ込めを起こす場合には、有限の箱の形をすることが知られている。また、場の量子論の一部の自由度を抜き出した場合(例えばクォークや、ゲージ群を分割した場合)、その自由度は箱の中を運動するプローブのD ブレーンであることが知られている。すなわち、閉じ込め相のクォーク(その閉じ込め状態であるメソン)や余剰U(1)ゲージ場に付随するスカラー場などの真空期待値は、ある特殊な箱の中を運動する粒子の場所、と読み替えることが出来る。AdS/CFT を用いると、場の量子論のモジュライ(スカラー場の真空期待値)が、カオスの舞台となるのである。この考え方に基づき、時空の取り方やブレーンの種類など、様々な設定を試したのであるが、なかなか当初考えたような簡単なセットアップではうまくカオス的な力学系が定義できないことが判明した。現在は、それらの精査が終わり、ようやくカオス系の数値計算に入ろうという段階である。従って、申請時の進捗予定からは若干遅れているが、一方で、上記に記載したように、関連分野での研究成果が出ている。
|
今後の研究の推進方策 |
プローブブレーンが、双対時空内を運動する際の運動方程式は、超弦理論で書き下すことが出来る。最も簡単な閉じ込め時空を第一モデルとして解析し、カオスとの関係を精査する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の科学研究費の残高1002円は、適正に科学研究費を使用しようとした結果の残額であり、研究は順調に遂行している。残額の1002円を平成27年度に少額で無理に遂行するのではなく、次年度の研究計画のうち旅費等に適正に組み入れる方が、研究遂行により効果的であるため。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の残額1002円は、平成28年度の計画における旅費等と組み入れることで、効果的に使用する。
|