研究課題/領域番号 |
15K13484
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
嶋 達志 大阪大学, 核物理研究センター, 准教授 (10222035)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 二重ベータ崩壊 / フラットパネルディテクタ / アモルファスセレン |
研究実績の概要 |
本研究は、粒子線の通過位置およびエネルギー賦与の両方に対して感度を持つフラットパネル検出器(以下FPD)を次世代の二重ベータ崩壊測定実験のための中核デバイスとして利用するため、製作方法を確立し基本性能を実証することを目的とする。デジタルX線診断装置の基本デバイスとして既に普及しているFPDは有感層にアモルファスセレン(以下A-Se)を用いており、セレンの同位体82Seは二重ベータ崩壊試料核としてもすぐれた候補であるため、高性能な二重ベータ崩壊測定装置に応用できる可能性がある。 通常のFPDではA-Se層の厚さが~1mmであり、単層ではベータ線の全エネルギー賦与を測定できないため多層化が必須である。ところが通常のFPDでは生成電荷を読み出しにTFTパネルを用いているため、TFT自体のガラス基板が不感層となってしまう。この問題の解決策として、当初TFT層をシリコンストリップ検出器(SSD)に置き換えることを想定していたが、その場合でもSSD自体は試料核としては機能せず、容積率の点で理想的とは言えない。そこで構造についてさらに検討した結果、A-Se表面に厚さ数十nmのパッド状の電極層を形成し、厚い基板を省くことを思いついた。この方法は同時に、通常のFPDにおける主要なノイズ源であるTFT回路のスイッチングノイズをも排除可能である。また、市販品では真空蒸着によってA-Seを成膜しているが、より効率的な手段として化学反応を用いた手法を採用した。実際にA-Se膜の形成が可能であることをテスト実験によって確認し、現在、検出感度の一様性に直結するA-Se膜厚の均一さを検査中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FPDを実際の大型二重ベータ崩壊測定装置の中核デバイスに転用する上で必要となる構造上の変更および製法について、FPDの主要供給元である島津製作所基盤技術研究所からの助言に基づいて検討を行い、実現可能な案を策定した。 研究計画の中でもっとも重要な課題であるA-Seの成膜方法について、化学的手法に取り組み、90%以上の収率での成膜に目処をつけることができた。またベータ線に対するエネルギー分解能を確保する上で重要なA-Se膜の均一性について、133Ba標準ガンマ線源からの81keVガンマ線の透過率測定による検査方法を開発した。この方法ではA-Se試料を透過した81keVガンマ線を、カスケードγ崩壊で放出される356keVおよび302keVガンマ線と同時計数で検出することにより、極めて高いSN比を達成した。実際のA-Se膜に要求される膜厚の非一様性の上限は約1%であるため、それ以上の精度での膜厚測定に向けて、測定精度を検証中である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、以下の順序に沿って研究を進める。 (1) 化学的手法によるA-Se成膜において溶液の温度管理と収率の関係を調査し、再現性を確立する。 (2) 膜厚の非一様性を測定し、要求される精度(~1%)を満たさない場合、 成膜用フレームの水平度を向上させる等の対策を図る。 (3) メッキ法または真空蒸着により5mm四方程度のパッド状電極を付加し、電気伝導度等の直流特性、およびショットノイズ波形等のパルス特性を測定する。漏れ電流やショットノイズが大きい場合、電極とA-Se層の間に酸化セリウム等の薄膜層を追加し、バリアを形成することによってそれらの低減を図る。 (4) 241Am線源からのアルファ線を入射させ、放射線に対するパルス特性を調査する。 以上の結果から、FPDの放射線検出器としての基本性能を評価する。 実際のベータ線測定に向けては、できるだけノイズを抑制するためにパッド状電極の大きさをベータ線のエネルギー賦与に関与する領域の広がりと同程度に小さくする必要があると予想される。そこで2mm四方乃至1mm四方のパッド状電極での試作を行ない、性能評価を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
申請時に予定していた真空蒸着法によるセレン成膜の実施が業者側の事情により研究期間内には難しい状況となったため、代替の方法として化学的手法を考案し、そのテストを行った。このためもっとも経費のかかるフラットパネルディテクタ本体の開発を平成28年度に実施することになり、その分平成27年度分の使用額が予定額よりも下回った。
|
次年度使用額の使用計画 |
新しく考案した化学的手法によりアモルファスセレンの成膜が可能であることまでは確認できており、平成28年度中に電極膜の付加および放射線検出器としての性能試験を行う。このため多数の試作品を製作する必要があり、平成27年度の残額と平成28年度の交付決定額を合わせた経費が必要になるものと見込まれる。
|