暗黒物質直接探索実験は、イタリアのDAMAグループ等の「検出の主張」と米国のXENON100グループ等の「排除の主張」が対立しているが、10GeV以下の質量では許容される領域がある。低質量暗黒物質は、比較的原子量の小さい物質で低閾値の検出器を製作することで感度の高い探索実験を行うことができる。米国のDAMIC実験は40eVのCCDを用いて、わずか1gの検出器で100kg以上の質量の検出器に匹敵する感度を得た。 本研究は、i)有機半導体を放射線検出器として動作させ、閾値0.5keVを達成、ii)暗黒物質探索実験に必要とされる長期安定性や大質量化への要素技術を開発することを目的とする。 平成28年度の研究では、放射線検出器としての動作確認実験を行った。特に平成27年度までの試験で信号が確認できなかったα線の検出を目的として、S/Nの改善を重点的に行い素子の構造の改良などもあわせて行った。これまで単体の半導体を用いた構造としてきたが、P型半導体とN型半導体の接続を持つ構造として検出領域を確保するという方針とした。それぞれの厚みは約75nmで合計で最大150nmの検出領域が形成されることになる。 この構造を持つ素子に対してLED光を照射したところ、複数光子による信号が検出された。さらにα線の信号を照射した。最大30keV程度の信号が期待されるところだが、信号は確認されなかった。暗黒物質用の検出器としては、さらにS/Nの良いシステムとする必要があることが判明した。
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