研究課題
平成27年度に於いては、対向型の二光子対超放射(PSR, Paired Super-Radiance)の研究を計画した。過去のPSR実験においては、二本の励起レーザーをパラ水素分子標的に対して同一方向より入射した(ラマン型一方向励起)。これにより標的のコヒーランスは空間的な変調を受け、レーザーの持つ位相が印可される。これに対し、対向型PSRでは二本の励起レーザーを対向方向より入射し、標的中に空間一様な初期コヒーランスを作り出す。この結果、PSRはback-to-backに放射される二光子から成り立つ。このトポロジーをもつ二光子超放射の観測は、新しい形態のPSRの発見というだけでなく、ニュートリノ質量分光にはより本質的意義がある。その理由はニュートリノ実験にとり本質的な二光子凝縮体が対向型PSR(この型のみ)により形成されるからである。平成27年度に於いては、固体パラ水素を標的としたPSR実験(ラマン型一方向励起)を開始した。この実験により固体パラ水素の様々な性質をPSRの視点より研究する。また対向型PSRのシュミレーション研究やレーザーをはじめとする実験装置の開発研究を行った。標的として、パラ水素分子、ゼノン原子、水銀原子などを想定し、レーザー製作の技術的可能性や信号観測の観点から詳細に比較検討した。更に原子を利用したニュートリノ質量分光にとり非常に重要な背景事象の理論的な研究を行った。その成果として、背景放射が軽減できる環境を考察し、これを論文としてまとめた。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の当初目標は、対向型PSRのシュミレーション研究、レーザーを中心とした実験装置の製作を中心に行うことにあった。実績概要にも書かれている通り、これらの全ての目標において、概ね当初の目標を到達した。また固体水素を標的とする二光子超放射実験に着手するととができ、一部順調にデータを取得することができた。また、理論的研究においては、背景事象の軽減策を広く考察し、成果の一部を論文としてまとめた。以上の理由により、研究は概ね順調に進んでいると判断した
当初に提示した基本的な方針を継続して推進する。即ち平成28年度は主として対向型二光子超放射実験を行い、この結果を発展させることにより最終目標である二光子凝縮体の実験的研究を行う。二光子凝縮体の実現は非常に挑戦的課題である。幸い当該グループには数値シュミレーションの分野にも経験の豊富な理論研究者が加わった。また実験を主導的に取り組む若手研究者も新規に参入することになった。これらの人材とも連携を強める。平成28年度については、対向型の二光子対超放射の信号を観測することを目標に、レーザーや標的作成を進め、実験を開始する。
対向型二光子超放射実験の進行状況を鑑み、レーザー製作に係る費用の一部を次年度繰越とした。より具体的には、二光子対向超放射実験に用いる標的をシュミレーション等を用いて慎重に検討した。この間個体パラ水素分子を標的として用いる実験を先行して行うこととした。これらの準備的研究を並行して進めたことにより、レーザー製作費用の一部を次年度に繰り越しとした。
対向型二光子超放射実験を予定通り進めるため、当該年度前半において保留していたレーザー製作を遂行する。繰越額はすべてレーザー製作やそれに関連する諸経費に充当する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 14件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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