研究課題/領域番号 |
15K13493
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
長谷川 雅也 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (60435617)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 電波観測 / 超伝導検出器 |
研究実績の概要 |
本研究では、ニュートリノ捕獲反応を用いた宇宙背景ニュートリノの直接検出に向けて、超伝導ミリ波検出器と電波観測技術を応用した新しい手法を開拓する事を目標としている。具体的に新しい手法とは、「超伝導検出器を用いた(捕獲反応からの)電子エネルギーの精密測定」と「電波を用いた電子のトラッキングによる背景事象の削減」である。これらの手法を用いて崩壊電子を0.1eV以下のエネルギー分解能で、かつS/N比が1を越えるクリアな検出が実現すれば、これまで不可能と言われた来た宇宙背景ニュートリノの検出器について道筋が開かれる。 本年度は「電波を用いた電子トラッキング」の原理検証を行う為のプロトタイプ検出器の設計及び各コンポーネントの性能評価を開始した。まずシミュレーションにより、~1テスラの磁場中に電子を通した際に発生するサイクロトロン放射を用いてS/Nが10以上で電子の通過を同定できる事を確認した。ここで1テスラの磁場中で崩壊電子の典型的なエネルギーである数10keVの電子が放出する電波の周波数は約27GHzとなる。次にこの仕様に基づき、プロトタイプ検出器用のクライオスタット(真空槽)のメカニカルな設計を行った。 並行してトラッキング装置の読み出しに関する基礎特性の評価を行った。具体的には信号発生器を用いてサイクロトロン放射を模擬した25-40GHzの電波を発生し、それをホーンアンテナで受けて、ローパスフィルタ及び(低温)アンプを通してパワー検出器に入射して、~30GHz付近の電波に対して検出器の感度がある事、及び本測定に無関係な高周波(>35GHz)に対して感度がない事を確認した。 以上のように、プロトタイプ検出器(電子トラッキングの方)を製作する為の準備研究が完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では本年度中に2つの新しい手法に関する原理検証のためのプロトタイプ検出器の製作を行う予定であり、そこまで年度内に到達はしていないが、シミュレーション結果に基づくデザイン設計はほぼ完了しており、次年度早々に検出器の開発を行い、原理検証が開始できるめどがたっているため、(2)おおむね順調に進展している、とした。
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今後の研究の推進方策 |
まずは本年度の準備研究を元に、原理検証のためのプロトタイプ検出器の製作と実証試験を開始する。具体的には「電波を用いた電子飛跡の検出」「エネルギー分解能」等の基本特性を評価する。また、超伝導検出器を用いた電子の検出とエネルギー測定に関する研究も開始する。本研究で提案する手法は未開拓の方法であり、常にシミュレーションと結果を比較しながら、本手法の深い理解を目指す。原理検証が完了したら、次に結果を元に、宇宙背景ニュートリノ検出に向けた実機製作の為のシステムのセットアップの検討を行う。検討は基本的にシミュレーションを用いて行う。電子トラッキング部の形状や長さを変えながら、電子の通過効率や背景事象の割合、超伝導検出器とのマッチング効率等を考慮して、S/Nがより高くなるセットアップを考案する。必要に応じて原理検証に用いたプロトタイプ検出器を改良して、再検証を行う。最終的に期待される性能を系統誤差も含めて評価し、宇宙背景ニュートリノ検出に向けての基本開発事項を完了させるまでを研究期間内にカバーする事を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの達成度でも記した通り、当初の研究計画では本年度中に2つの新しい手法に関する原理検証のためのプロトタイプ検出器の製作を行う予定であったが、シミュレーションを元にしたデザイン設計にとどまった。そのため、検出器の開発に関する予算の執行を次年度に先送りする事になった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は原理検証のためのプロトタイプ検出器の製作を主に行う。従って次年度研究費はほぼすべてプロトタイプ検出器の製作に使用する予定である。具体的にはクライオスタットの製作、冷却系の準備と温度をモニターするためのセンサー及び温度コントローラ等の調達に使用する。
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