研究課題
グラフェンなどを含む原子一層もしくは数層からなる原子層物質では、通常の半導体にはない特異なバンド分散やクーロン相互作用の著しい増大などにより、新奇な光電変換の物理が発現する舞台となりうる。そのような観点から原子層物質である遷移ダイカルコゲナイドを対象に、その光学的性質を明らかにし、光電変換の原理限界を超えるために必要となる多体相関効果などの量子現象を探索する。これらの研究を通して、原子層物質の新しい光電変換プロセスの開拓とその理解を目的としている。本年度は、大面積・量産作製が可能な化学気相堆積成長(CVD)法により成長を行った単層MoS2の光学特性評価を行った。一般的に結晶性が高いと考えられている単結晶からスコッチテープを用いて機械剥離した単層MoS2と比べ、CVD法で合成された単層MoS2では作製条件によっては数十倍強い発光を示すことなどわかった。これは、剥離法で作製された単層MoS2と比べても、CVD法成長時にS欠陥などが少ない単層MoS2が合成されるためであると考えられる。さらに、CVD法で作製されたMoS2薄膜を利用し、グラフェン/MoS2/Siのヘテロ構造太陽電池の作製・評価を行った。その結果、MoS2層を導入することによって、単層グラフェン/Siヘテロ構造太陽電池では、その光電変換特性が0.44%から1.35%へと大幅に向上した。さらに、MoS2やグラフェンの層数を最適化することによって、グラフェン/MoS2/Siのヘテロ構造太陽電池において11.1%の高い性能を達成した。これは、光電変換プロセスにおいて、MoS2がキャリアブロッキング層としての機能を果たしているためであると考えられる。また、時間分解発光測定などの手法により、遷移ダイカルコゲナイドの多体効果に関する知見が得られた。
2: おおむね順調に進展している
原子層物質の一つであるMoS2において、光電変換プロセスにおいてキャリアブロッキング層としての新たな機能を見出し、それを利用して非常に高い光電変換効率を有する太陽電池の作製に成功するなど、概ね順調に研究が進展している。
原子層物質(遷移金属ダイカルコゲナイド、金属モノカルコゲナイド)の光電変換機能の研究を進める。それと同時に、原子層物質中に閉じ込められた電子系では電子相関が強く働き、光励起で生成された電子-ホール間のクーロン相互作用の著しい増大や、それに伴う逆オージェ過程等の多体効果が期待されるため、それら一連の研究を進める。
研究の進捗に応じて、人件費(研究時間)の調整を行ったため。
研究が進捗してきており、人件費として使用する予定と合わせて、成果発表のための学会旅費などで執行することを計画している。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件)
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