研究実績の概要 |
本年度は、遷移金属ダイカルコゲナイドを含む二次元層状物質を対象として、原子層物質から構成されるヘテロ構造をベースに太陽電池へ応用する研究を進めた。光電変換のプロセスを理解するために重要となる高品質な遷移金属ダイカルコゲナイド作製、その評価、電子状態の理解を試みた。欠陥や不純物、キャリア濃度に敏感な発光量子効率は、原子層物質の品質を評価する重要な指標の一つである。原子層物質のように基板上に置かれた極薄膜の発光量子効率を、同じ条件で測定するために有機色素を用い、相対法によって求める方法を確立した。これにより、単層MX2(M=Mo, W, X=S, Se)などにおいて、発光量子効率を求めた。さらに、その電子状態と励起状態ダイナミクスを明らかにするために、時間分解発光分光測定を行い、励起子の寿命を求めた。ここから、原子層物質中の励起子輻射寿命が物質によって異なるものの、数十ns程度と比較的長いことが明らかとなった。このため、高品質な単層MX2(M=Mo, W, X=S, Se)であればあるほど、励起子-励起子消滅過程などの非線形プロセスが起こりやすいことが予想され、光電変換の物理過程を理解する上で重要な指針が得られた。さらに、強酸による化学処理を施すことで、半導体単層MoS2のキャリア数や欠陥抑制などを調べ、その結果、単層MoS2の品質を反映する発光強度が数十から100倍程度まで増加し、処理前は非常に低い発光量子効率が改善した。また、発光の温度依存性などからそのメカニズムを考察することを進めた。さらに、二次元層状物質による太陽電池を念頭に、遷移金属ダイカルコゲナイドとモノカルコゲナイドを積層した、pnヘテロ接合の作製を行った。
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