今年度は、ボア系30mmの超電導マグネットに挿入することができる電気炉の立ち上げ、ならびに結晶成長を行った。 電気炉については二重のシールド構造を持ち、外径9mmφの試料を入れることのできる空間を確保したものをメーカーに依頼して作成し、最高温度800度Cを目指していたが、マグネットシステムに影響を与えずに加熱できる温度は約750度C程度にとどまった。しかしこの温度でも当初の目標とするタリウム系トポロジカル絶縁体TlBi(S1-xSex)2の成長はかろうじて可能であり、ディラック半金属である中間組成 TlBi(S0.5Se0.5)2 の成長を、1テスラの磁場下で行うことができた。 磁場のない環境で成長した結晶との物性の違いが観測されれば空間反転対称性が磁場印加によって破れた証拠になりうるが、現在までにそのような結果は残念ながら得られていない。しかし、限られた温度ながら磁場中での結晶成長ができる環境が得られたことは確かな成果であり、今後の研究に役立つことが期待される。例えば、1) 単相分離が難しい鉛系ホモロガス相において特定の相の析出を抑えることにより狙った相の結晶を得ること、2) CuxBi2Se3 のアニールにおける磁場の効果、3) 空間反転対称性の破れているワイル半金属における結晶成長方向の制御、などが可能になると考えられ、現在、実験を始めたところである。今後はさらに強い磁場、あるいは位置を変えることによって磁場勾配下での成長も実現させたい。
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