研究課題/領域番号 |
15K13504
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
水野 清義 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (60229705)
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研究分担者 |
六田 英治 名城大学, 理工学部, 教授 (80298166)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電界放出 / タングステン針 / 電界誘起ガスエッチング / 電界イオン顕微鏡 |
研究実績の概要 |
実施計画に従って、①タングステン針の方位依存性:<111>方位と<110>方位を向いた針 ②針先端の原子構造との関係:電界誘起ガスエッチングによる先鋭度の調整 ③エッチングガス種との関係:電界誘起ガスエッチングに用いるガス種(酸素、窒素、水)の選択 ④針ホルダーの形状との関係:絶縁物が電子線に対して露出している形状と露出していない形状の比較 ⑤針ホルダー絶縁材料との関係:窒化アルミニウム、アルミナ、その他のマシナブルセラミクスの比較 ⑥温度依存性:液体窒素温度と室温の比較を行った。また、これらの実験を行うために、真空チャンバの改造を行った。その結果、<110>方位を向いたタングステン針を電界誘起酸素エッチングで先鋭化したときに極低バイアス電子放出状態を得ることができた。針ホルダーは窒化アルミニウムを用い、液体窒素で冷却した場合であった。また、この状態は温度によって変化し、液体窒素温度では電界放出パターンは円形状に収束しているが、室温付近まで温度が上昇するとリング状に広がったパターンへ可逆的に変化することが観察された。この現象は単純な電界放出では説明がつかないため、エキソ電子放出や、絶縁物のチャージアップ等の影響が示唆される。しかし、極低バイアス電子放出状態の再現性が低く、更なる条件の確立が急務である。 これらの実験に加えて、低仕事関数の電子源として用いられているLaB6についての研究も共同研究者である六田教授とともに進めている。具体的には、電子放出面であるLaB6(100)単結晶表面の構造を低速電子回折により解析する実験を行った。その結果、最表面はランタン原子であり、2層目のボロン原子との層間距離が結晶内部と比べて0.3 Å縮んでいることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
極低バイアス状態を達成することはできたが、再現性が低いため、実験の進行に時間がかかってしまっている。そこで、実験を効率よく進めることができるように装置の改造を行った。具体的には、小型の専用チャンバを導入することにより、作業が短時間で効率よく行えるようになった。また、電界放出電流の測定ができるようにファラデーカップを設置した。今後、この装置を用いて実験を繰り返し、再現性を確立していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、再現性を確立するために、針の先鋭度や冷却のタイミングを詳しく調べる。実験の効率を上げるために、昨年度改良した真空チャンバが役立つと考えられる。その後、以下の研究内容に取り組む。①新しく取り付けたファラデーカップを用いて電流のバイアス依存性を測定し、FNプロットにより電界電子放出かどうかを調べる。 ②電流の時間変化を測定する。もし、エキソ電子放出であれば、電流は指数関数的に減少すると期待できる。 ③電子ビーム形状と、針や針ホルダーの形状との関係を明らかにする。昨年度、温度により電子ビーム形状が円形からドーナツ形に変化することを見出したので、その理由を明らかにする。④電子ビームのスペクトル計測を行い、電子放出に関わる電子状態を明らかにする。 さらに、LaB6については(111)および(110)面についても低速電子回折による構造解析を行い、低仕事関数の電子放出過程を明らかにする。
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