本研究課題の目的は、グラフェン、hBN(六方晶窒化ホウ素)などの原子スケールの厚みをもつ物質(原子膜)について、電子・スピン伝導および光学的応答とその制御に関する微視的な理論、現象理論の基礎を構築することである。特に、原子膜系に特有の新奇量子現象の発見と予測を目指した課題である。上記の研究目的を達成するべく、強結合模型によるモデル計算と解析計算、第一原理計算による固体電子状態の解析によって、以下の課題を遂行し、当初の課題設定を達成する十分な成果を得た。ここでは代表的な二点の成果について記す。 1. 円偏光電磁場照射によるカーボンナノチューブの電子状態制御 一次元炭素物質であるカーボンナノチューブに、円偏光の光を入射させることで電子状態の制御変調させることを提案した。カーボンナノチューブは、筒状の構造をもった物質で、その巻き方によって、電子状態が変わることが知られている。我々は、Floquet-Tight-binding-modelによって、円偏光の効果を解析し、アームチェアナノチューブでは、バレーに依存した電子局在が起きることを示した。今後、バレートロニクスの応用可能性が期待される。 2. ベリー曲率ゼロのトポロジカル物質相の理論 トポロジカル物質では、物質の表面やエッジなどの境界面において、無散逸な電流やスピン流が現れ、超低消費電力の電子素子や量子計算素子への応用が期待されている。従来の研究では、ベリー曲率とよばれるトポロジカル量が有限になる物質で、トポロジカル状態が発現することが知られていました。しかし、我々は、たとえベリー曲率がゼロであっても、ベリー接続と呼ばれる別のトポロジカル量が有限であれば、トポロジカル特性が発現することを解明した。この理論により、トポロジカル特性をもつ新たな物質群の設計や探索、合成が今後期待される。
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