研究課題/領域番号 |
15K13511
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐々木 孝彦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20241565)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分子性導体 / プロトン / ノイズ |
研究実績の概要 |
本年度は,課題実施に必要なノイズ測定系の構築を行うために設備備品として低ノイズ電流アンプを導入し低電気抵抗試料による抵抗ノイズ測定に加えて,高電気抵抗試料での伝導度ノイズ測定が可能となるようにした.これらのノイズ測定系の構築では,ドイツ・ゲーテ大学のイエンス・ミューラー教授を客員教授として,ベネディクト・ハートマン博士課程学生を研究生として長期間招聘し技術協力をいただいた.構築したノイズ測定系を用いて低温で電荷ゆらぎ異常を伴うモット絶縁体化が顕著となる分子性ダイマーモット絶縁体β’-(BEDT-TTF)2ICl2の伝導度ノイズ測定を行った.高温領域では,電気抵抗の温度変化によって期待される1/fノイズが観測されるが,80-100KにおいてBEDT-TTF分子の末端エチレン基の回転運動によると考えられるローレンツ型のノイズ異常を1/fノイズに重畳して発現することを見出した.このローレンツ型ノイズの特徴的周波数は温度の低下とともに低周波数側に移動し,ガラス凍結の時間スケールに到達する周波数にスローダウンしたときを凍結温度とすると,この温度は他の実験から示唆されるエチレン基の構造秩序配向が起こる温度とほぼ一致することが明らかになった.このことはエチレン基の運動がローレンツ型ノイズを生じさせていることを示している.また,エチレン凍結よりも低温の温度域においてノイズ強度が非単調に増加する振舞いが観測された.この温度域では低周波数誘電率に周波数分散が見られており,リラクサー的な電荷の不均一状態が示唆されている.このような電荷不均一による1/fノイズ強度の増加については今後の課題である.このような予備実験などから,構築したノイズ測定系がエチレン運動などの局所構造搖動由来のノイズ,強相関モット状態の電荷ダイナミクス由来のノイズなどを検出する性能を有することが検証できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に予定していた,ノイズ測定系の構築とその性能評価については計画通りに順調に実施することができた.また本課題で対象とするプロトン-電荷協奏系におけるプロトン搖動によるノイズ発生・検出に関連して,予備実験物質系におけるエチレン基の回転秩序化がノイズとして観測可能であることが判明した.この結果からプロトン搖動と電荷ダイナミクスの相関をノイズとして捉えられることが明らかになった.このような成果から本課題は順調に進捗していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
本課題で対象とするプロトン-強相関パイ電子協奏系物質κ-H3(Cat-EDT-TTF)2は,低温で量子スピン液体状態が示唆されているが,プロトン搖動との関係は明らかでは無い.最近,プロトンが局所構造的に量子トンネルすることによる量子常誘電性が見出されている.この量子常誘電性は,電荷・スピンと結びついて非自明な量子スピン液体を実現している可能性がある.このような電荷-スピン-プロトントンネルを,特にプロトン搖動ダイナミクスに起因する電荷応答ノイズとして探索することが重要であり,今後の研究方針である.このために計画通りにノイズ測定を本課題で遂行するとともに,誘電率,赤外分子分光などを試料提供者らと共同して実施していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の一部に当初見積もり額よりも安価に購入できたものがあったため少額の支出残額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費に加算して有効に使用する予定である.
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