本研究では、超伝導転移温度Tc=8Kの層状物質FeSeに、金属と種々の有機分子のコインターカレーション(共挿入)を試み、Tcを向上させることを第1の目的とした。さらに、層状物質である遷移金属-カルコゲナイドに、金属と種々の有機分子の共挿入を試み、新しい高温超伝導体を創製することを第2の目的とした。 第1の目的に対しては、FeSeにリチウムとヘキサメチレンジアミン(HMDA)を共挿入することに成功し、Tc=38Kと41Kの超伝導相を発見した。さらに、FeSeに、リチウムあるいはナトリウムと2-フェニルエチルアミンの共挿入に成功し、それぞれ、Tc=44Kと43Kの超伝導を発見した。このインターカレーション化合物は、これまで合成されてきたFeSeインターカレーション化合物の中でFeSe層間距離が最も長く、最も2次元的な電子状態が実現していると考えられる。このTcは層間距離が無限大であると見なせるFeSeの単層膜のTcと同程度であることから、インターカレーションによってFeSe層間距離を更に拡張させてもTcはあまり向上しないと結論した。 第2の目的に対しては、電荷密度波(CDW)が実現しているTiSe2に、リチウムとエチレンジアミン(EDA)あるいはHMDAを共挿入することに成功し、Tc=2.2K-4.2Kの超伝導を発見した。共挿入によってCDWが消滅し、代わりに超伝導が発現したものと結論した。また、半導体であるMoSe2に、リチウムとEDAあるいはHMDAを共挿入することに成功し、それぞれTc=4.2Kと6.0Kの超伝導を発見した。この系では、Tcは層間距離にはあまり依らず、キャリア濃度に強く依存していることが分かった。さらに、半金属であるTa2PdSe6にEDAを挿入することに成功し、Tc=4.5Kの超伝導を発見した。残念ながら、これらの系のTcは高くない。
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