研究課題
本研究では時間反転対称性の破れたカイラル超伝導に特徴的な性質を実験的に明らかにすることにより、複素数の秩序パラメータを持つ非従来型超伝導を検証することを目的としている。特に、時間反転対称性の破れの検証は、今までミューオンスピン回転およびカー効果による実験に限られていたが、いずれもカイラルドメインの直接観測には至っておらず、他の方法によるさらなる検証が重要な課題となっている。平成28年度は、前年度明らかになった、鉄系超伝導体FeSeの双晶境界近傍におけるカイラル超伝導の誘起の可能性を受け、共同研究により角度分解光電子分光による超伝導ギャップの角度依存性を詳細に調べた。その結果、シングルドメインの試料においてはギャップが急激にゼロに近づく方向が同定され、本質的にノードを持つ超伝導体であることが示された。さらに、マルチドメインの試料においてはその方向においても有限にギャップが開いていることが明らかになった。これは、双晶境界において時間反転対称性が破れたカイラル超伝導が誘起され、虚数部が有限になることにより準粒子励起に有限のエネルギーギャップが生じることを明らかにしたものである。当初予定していた極低温の走査型SQUID顕微鏡の開発は極低温下での走査段階で明らかとなった問題点を解決するべく今後も研究をつづける予定である。室温における微小ホール素子を用いた走査には成功し、これを用いてカイラル反強磁性体Mn3Snの磁場分布測定を行った。その結果、通常の磁化による磁場分布の成分以外に新たな成分の存在を明らかにした。この成分はこの系に期待されるベリー位相由来の軌道磁化を観測している可能性があり、これについてもさらなる研究を進める。
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