研究課題/領域番号 |
15K13517
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
井澤 公一 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (90302637)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱伝導率 / 交流法 / 高圧 |
研究実績の概要 |
本研究で採用した3ω法では,試料上に作製した細長い薄膜抵抗を温度センサー兼ヒーターとして使用し,交流熱を発生させた時の試料の熱応答から熱伝導率を見積もる。この手法を極低温高圧下で適用するために,本計画では,(1) 極低温に適した温度センサーの材質の最適化,及び交流法に適した試料および温度センサーの加工を行う。また (2) 微小な交流熱応答を精度よく測定するためのシステムの構築を行う。そして両者を組み合わせることで極低温圧力下での測定を試み,最終的に極低温高圧下での熱伝導率測定手法としての確立を目指す。まず,(1) では特性,成膜のしやすさ等の理由から,当初予定していたZrNx膜ではなくGe-Au合金膜を選び,成膜及び加工を行った。そしてその膜に対して温度計及びヒーターとしての特性評価を行った。その結果,温度計としての感度は,これまで使用されてきた金膜よりも全測定温度域で高く,本手法に適した特性をもった膜であることがわかった。一方,熱応答測定システムの開発を行い,微小な3ω成分をω成分から分離することに成功した。そこで本研究で開発したGe-Au合金膜及びシステムを用い,真空中,圧力媒体中の両方で交流熱による熱伝導率測定を行った。その結果,真空中では低温において従来の定常法により測定した結果と定量的に一致することがわかった。また,圧力媒体中でも真空中と同様に熱伝導率が測定できることも確認した。一方,高温領域においては徐々に両者の値がずれることも判明した。これについては熱損失のため定常法では熱伝導率が適切に見積もられていない,あるいは本手法に何らかの問題がある,という可能性があるが,今のところ原因はわかってはいない。今後,圧力下の熱伝導率測定の実現に向け,引き続き研究を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度に計画していた,極低温用温度センサーの材質の最適化,温度センサーの微細加工,熱応答測定システムの構築,圧力媒体中(常圧)での既知試料の熱伝導率測定のすべてについて予定通り遂行し,期待していた結果を得ることができている。さらには平成28年度に予定していた4.2K以下の実験をすでに始めており,従来の金膜では測定できなかった10K以下2Kまでの測定に成功している。この点においては計画以上に進展しており,研究計画はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は27年度に開発した測定システムを用いて圧力下の熱伝導率の測定を進めてゆく,その際,得られた結果から開発したシステムの評価を行い,必要に応じてその改良を行ってゆく。具体的には次の計画で研究を進める。(1) 平成27年度に行った実験を圧力セルを用いて圧力下に領域を広げて実行する。ここで特に圧力を増加させたときの熱応答が常圧からどのように変化するか調べ,必要に応じて測定条件を再検討する。またそれとは平行して(2) 圧力媒体の熱伝導率測定を圧力を変えて測定する。その際,いくつかの圧力媒体に対して実験を行い,それらを比較する ことにより本研究に適した圧力媒体を選ぶ。そして (3) 4.2 K 以下の極低温領域に実験を進め,実験手法の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で重要な役割を果たす半導体的な抵抗の温度依存性をもつ膜の開発として,当初ZrNx膜の開発を予定していたが,Ge-Au合金膜が同様に適した特性をもち,その特性の最適化をする上でより容易に特性制御ができることが判明したため,Ge-Au合金膜も温度センサーの候補として評価した。その結果,比較的早い段階で非常に良い特性をもつ膜を得ることに成功し,Ge-Au合金膜を本実験手法で使用する温度センサーとして採用するに至った。このように当初計画での想定よりも順調に適した膜を得ることができたことにより開発コストが下がったため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
計画では,温度計開発コストが下がった分,低温実験による本手法の最適化を重点的に進める。特に4.2K以下の極低温における測定において,測定温度領域を多くの興味深い現象が見られる極低温領域へ拡張するための開発に重点を置き,その実験ための寒剤に使用する。また,そのような極低温領域での微小信号をも精密に測定できるよう熱応答測定システムの改良費にも使用する。
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